表紙 :8点(10点満点)
タイトル:8点(10点満点)
内容 :9点(10点満点)
あとがき:9点(10点満点)
総合:34点(40点満点)
おいしいコーヒーの入れ方シリーズの第一弾。
父子家庭で育った高校3年生の主人公、勝利(かつとし)が、父親の転勤のため、いとこ姉弟、花村かれん、丈、と同居することになるというのが物語の始まり。
勝利は父親との二人暮らしであったため、主夫としての才能があるというのが、この物語のミソ。
勝利は、両親がそろってロンドンに転勤することになったため、花村姉弟と3人暮らしになる。しかし、長女のかれんは美人でありながら家事ができない。美人といえども性格は悪くない。そんなかれんに勝利は恋心を抱く。
高校3年の春、かれんは新任の美術教師として、勝利の通う高校へ来る。しかしクラスメートには同居していることは秘密である。
弟の丈とは同じ陸上部ということもあり、すぐに打ち解ける。思春期真っ盛りではあるが、性格がいい。
行き着けの喫茶店のマスターはとてもいい味のコーヒーを淹れる。勝利の淹れるコーヒーもうまいが、マスターにはかなわない。
前半の展開で主要登場人物の情報をつかむことができる。だから比較的早い段階から物語の世界に浸ることができる。
中盤からかれんの不審な行動が目立ちはじめる。かれんに恋心を抱く勝利は後をつける。行き先は鴨川。太平洋に面した砂浜でかれんに見つかってしまう。
ここでの勝利の心情について
「
そう思いながら目を上げた僕の心臓が、
一回とばして打った。
」
と書かれている。この表現は独特で、見つかってしまった瞬間に、時が止まり、気づいたときには鼓動がはやくなっていることを「間」を使ってうまく表現している。
見つかってしまったことでかれんの秘密を知ってしまう。さらにその後、登場人物に意外なつながりができる。かれんはそのことを勝利にすべて話し、彼の腕の中で泣く。それを機転にかれんは憑き物が取れたように、ぐっと女らしさを増してゆく。
そして後半。恋敵が登場し、丈の好きな人が登場し、勝利が名言を吐く。ここは実際に読んでほしい。
冷静に自己分析できる純情な勝利が、あれこれ考えて行動したり、衝動的に行動したりすることで、活字で作られた静止画から、活字をばら撒いて作った万華鏡のような、恋愛小説でありながらスピード感ある、最初から最後まで、一気に読みたくなるような一冊である。
また、自分の感情を表す言葉や、比喩表現も多く使われているので、読みながら受験の小説文対策もできてしまう。一石二鳥。
あとがきには、作者の「恋愛小説」への考えが書かれている。あとがきがおもしろい作者はたいてい、本の内容も面白い。この作品のあとがきには深いものがあると個人的に思っている。
おいしいコーヒーのいれ方Ⅰ
キスまでの距離
村山由佳
集英社文庫 定価381円+税
