ホテルに戻りチェックインを済ませた後、二人温泉に行く事に。

ちなみにもちろん混浴ではない。

別々に風呂場へ向かう途中、『お前長いから、先に部屋戻ってるから』と言ってTさんは去って行った。

よし、これで気兼ねなく入れる。

ホテルの温泉はゆったりとしていて人も少なかったので、気が済むまでどっぷり浸かる私。

思う存分堪能した後部屋に戻ると、テーブルには食べ散らかしたお菓子…そしてTさんは爆睡している。

これまたデカイ子供がいたもんだ。

ふと時計を見ると私はどうやら2時間半程風呂にいたらしい。

…そりゃ寝るか。

再び部屋を見渡すがテーブルにはお菓子の袋が広がってはいるが、お酒を飲んだ形跡が無い。

退院してからタバコに加えてお酒まで止めているとは…有り得ないな、やっぱり何か引っ掛かる。

しばし考える私、ぼんやりと眺めた菓子袋の間に埋もれた小さな巾着が目に入って来た。

近付き手に取ると瓶が入っている感触がする…、これは一体なんだ?

巾着の口を開き瓶を取り出しラベルを見た瞬間、入院からの違和感の理由が全てわかってしまった…。

ゆっくりと瓶を元通りに戻した私はソファに座り、ベッドで眠るTさんを見詰めた。

…さて、どうするか。
どこから現れたか茂みの中からおじさんが突如現れこう言った。

『早まっちゃいかん!』

…そりゃ何か?

私、自殺志願者と間違われてるのか?

てかあんたのその現れ方とデカイ声で、危うく足を滑らせ自殺の仲間入りをする所でしたが…。

崖っぷちに立ったままおじさんを見詰めて一つため息をつきこう言った。

『ただの観光客です。』

しかし当のおじさんは聞いちゃいない。

『おじさんに話してみえへんか?誰かに話してからでも遅くは無いやろう。』

…何をだ。

『いや、必要無いです。』とはっきり断る私。

『お姉ちゃんまだ若いやろに、何をそないに急ぐんや…わしが話を聞くだけでは力にはなれんかも知れんが…』

…だから何がだ。


『だからただの観光客、連れがそっちにいるんで。』

おじさん
『…心中しても何の解決にもならんぞ?』


『いや…(人の話聞けよ)』

あまりの面倒臭さに崖っぷちからくるりと向きを変え、会話の噛み合わぬおじさんを残したままさっさとTさんの元へ。

おじさんに自殺どころか心中しにきたと間違われたと伝えると、Tさんは言った。

『俺もお前飛び込むかと思った…。ヒールであんなギリギリから下覗いてたら間違われても仕方ないぞ』

…そうなのか、以後気をつけよう。

気が付けばもうチェックイン可能な時間になっている、そろそろ帰ろうと促しながら振り返るとまだこっちを見詰めているおじさんが…死なねぇよ!

ってか人の話聞けないおじさんが自殺者の相談乗れるのか?

不安を感じつつホテルへと向かうのであった。
現在休職中の私。

再三復帰しろとの電話が入る。

こんなご時世、戻って来いとは有り難い話…なのにもう少しくらい休ませろよって文句言ったら罰があたるだろうな。

なので仕方なく復帰前に打ち合わせの為に会社に行ったのだが…。

暗い。

会社全体が暗い…そして重い。

不景気でどの業界も苦しいのは一緒だと思う、だからといって嘆いた所で良くなる訳じゃ無い。

ならば蟻地獄にはまったこの現状に暗くなるより、地獄でさえも楽しまなけりゃしんどいだけ。

なのに何だ?
葬儀屋さんにいつ職種転換したんだ、『お疲れ様です』が『ご愁傷様です』に聞こえる。

営業連中もシケた顔して…あまりのうっとうしさに『暗い・重い・湿っぽい、業績云々よかそっちのが問題だろうが。景気漬けに皆ハゲにしちゃえ』と言い捨てて来た私。

…ハゲにするらしい。
次は会社に笑いに行ってやろう。

『そっちのが似合ってるよ!それに明るくなるよね』って。

仕事大変だからこそ面白おかしく働ける様に自分達で工夫しないとね~。

さぁそろそろ気合い入れて仕事に戻りますかね。