ダンスが好きなダウン症児は多いと聞いたが、りーちゃんもダンスが大好きだ。居間のテレビでYouTubeの映像を流しては、大きな窓を鏡に見立てて踊っている。映像の振り付けを真似していて、テンポは遅れることが多いものの、なかなか上手に踊れていると思う。朝、学校に行く時なども、マンション1階の大きな窓を鏡にして毎朝、踊っている。

ダンスの種類は問わないようで、美女と野獣を見ると、社交ダンスのように一人でクルクル回り始める。相手はエアだから、両手は相手と抱き合っているようなポーズのまま、一人でクルクル回る。なかなかシュールでコミカルだ。

りーちゃんは大人も含めたダウン症の人々向けのダンス教室に、月2回ほど通っている。会場によってはその様子を少しだけ見られるのだが、時々挟まれる休憩時間もなぜか一人で踊っている。その一方、気分が乗らないと端っこでしゃがみ込んでいる時もある。

かつては、「今日は半分くらいしか踊りませんでした~」と先生に言われたこともしばしば。ただ、それも最近は「頑張ってましたよ~」と言われることが増えた。少しずつだけど、成長してますなぁ。

クラスはいくつかに分かれていて、りーちゃんが所属しているのはダンスを楽しもうというクラス。近所に住む1学年上のお友達、1学年下のお友達の3人で、たいていは参加している。

その年上のお友達は、教室が終わった後にりーちゃんが外まで出て来るまで見守るように付き添ってくれる。年下のお友達も、会場でりーちゃんに会うたびに抱き合わんばかりに喜んでくれる。2人ともいつも仲良くしてくれて本当にありがたいです。

今は3人そろって同じクラスだけれど、他の2人はりーちゃんよりもはるかに理解力が高いと感じる。ダンスそのものはもちろん、今は何をする時間なのか、ということの理解が、りーちゃんはなかなかできない。いつかは2人とも、もっと上のクラスに行ってしまうかもしれない。一口にダウン症といっても、個人個人でかなり違う。

レッスンの時間が終わると当然、生徒さんたちはゾロゾロと外に出てくるのだが、りーちゃんだけなかなか出てこない。先生に「りーちゃんのお父さーん」と呼ばれることもある。ダディが会場の中に入ると、1学年上のお友達に付き添われたりーちゃんがだいたいしゃがみこんでいる。もっと踊りたいということなのだろうか。

ただ、最近はそういうことも少なくなって、みんなと一緒に出てくることも増えてきた。やっぱり、少しずつ成長していますなぁ。

ダンス教室では年に1度、発表会のようなものがあって、生徒さんたちは200人くらいいただろうか。各地の教室から集まってくるので、大きな会場を借りて盛大に行われる。この時ばかりは先生たちも普段とは違い、とてもテンパっていている。出番の待ち方や保護者の待機場所などの手順も、事前にかなり細かく周知される。

そんな中やはり、りーちゃんはやってしまった。ステージからハケなければいけないところでのしゃがみこみ、である。先生が切羽詰まった声で「りーちゃんのお父さん!!」と叫んでいた。近くでスタンバっていたダディは間髪入れずダッシュ。力づくでりーちゃんを引っ張り上げ、舞台袖まで引きずり出す。

そうやって呼ばれる子は他にはいなかった。ある意味、唯一無二の存在のりーちゃん! …じゃなくって、本当にご迷惑をおかけしました。すみません!

今年は事情があって発表会には参加できなかったのだが、りーちゃんはこれからもダンスを続けるだろう。好きこそ物の上手なれ、というが、好きで続けられるというのが何より。マミもダディも、りーちゃんが楽しんでいる姿を見るのがこの上ない喜びです。