介護の勉強をしていた頃避けて通ることが出来なかったのは自分のお婆ちゃんお爺ちゃんの話だ 今回は父方の母の話をしようと思う。
私の記憶に強く残っているのはお好み焼きのいい匂いとお婆ちゃんと親父の怒号
まぁまぁとなだめる母と呆れて無視を決め込むお爺ちゃん
ひそひそとこっちをみて笑う他の客
まぁあまりいい思い出ではない
そう、父方のお婆ちゃん
以下分かりやすくツネさん、お爺ちゃんをローさんとする
ツネさんは恐ろしいほど我が強く一度決めたことが通らなかったり少しでも気に入らなければ人に怒鳴り散らし拗ねる人だった
大体同じ性格の親父は外食や外出する度に怒鳴り合っていた。
こうなるともうおしまい、何があろうと口は聞かないしブツブツと手当たり次第悪口を呟くモンスターとなってしまうのだ
一番めんどくさいなと思ったのは国民的アニメ映画ジブリの魔女の宅急便に出てくる黒猫のぬいぐるみを持っていた時にジジ可愛いねと言ったら問答無用でひっぱたかれ「なんでババじゃないんだ!まさかじじから買ってもらったのか無駄金使いが!」と怒鳴られたことである。
当時4歳、5歳だった私は泣くことを出来ずごめんなさいとしか言えなかった。
ローさんもツネさんに振り回されていたし怒鳴られていた、ただローさんの凄いところはそこに屈せずのらりくらりなんとかツネさんのご機嫌を保てる所だった。それでもそんな暴君に家事をさせたりしてるのはすごいなと思っていた。
そして最近、いや流行り病が猛威を振るう前なので2年前に久しぶりにツネさん達に会いに行った。
糖尿病と腰を悪くしたとは聞いていた、部屋に入りお久しぶりですと声をかけてわかった。
何度も見たことのある、遠くを見る認知症のあの視線
気のせいだろうと思おうとしたがそうもいかなかった。
まず私には下に兄妹がいるのだが弟のことをずっと親父、そう自分の息子の名前と間違え妹と母の名前を間違えるのだ
会話もズレていて中々話が繋がらない。そして何より怒らないのだ
良く言えば穏やかすぎるのだ
弟や母は穏やかになったことに喜んでいるようだったが私はただ怖かった。
ツネさんはきっと私のことをあまりよくは思っていなかっただろう他の兄妹と比べ露骨にあしらったりしていた。そんなツネさんが私ににこにこと話しかけ昔なら怒鳴り拗ねるような出来事も笑っているのだ、ずっとずっと
そんなツネさんに本当に慈しむようにローさんは笑いかけ少しだけ失笑も含んで俺がいないとなにも出来なくなっちゃったなぁとこっそり呟いた。
ツネさんは老いに今殺されているのだとひしひし思った。
帰り際送りなんてしたことなかったツネさんはよたよたと玄関まで見送りして私の手を握り何時でも来なさいと言った。
車の中で穏やかになってよかったねと盛り上がる家族を他所に私はただ死にゆくツネさんとその事を知っているであろうローさんの事を考えていた。
昔のツネさんより今のツネさんのが良いのは分かっているが明らかに欠如しているツネさんの人格はどうなってしまうのだろうか
ローさんにメールを送り確認もしたが確かに認知症の診断が出ているとの事だった。
初めて見た穏やかなツネさんの顔と心の底から愛しいと言う目をしたローさんが今も私の頭から離れない。
これも愛なのかそれとも今までの何かなのかは私にはわからない。