アルムスターファ氏の一度目の婚約者の電話
アルミトラが言った。-----お話しください、あなたのその衝撃を。
アルムスターファ氏が答えて言った。
私の仕事は増々過酷になった。父の急逝した理由は別の機会に話すが、それによって発生した家族の安否をも私が負うことになった。このことについても別の機会にはなそう。
私は精神的にも肉体的にもギリギリで毎日発狂寸前だった。仕事のことで頭が一杯だった。家族の安否で頭が一杯だった。自分が気を抜けば自分の一族はもちろんあらゆる収入源が断たれるのだ。工場で抱えている1800人の工員たちが路頭に迷うのだ。私はまだ25歳の若造だった。
普通の会社員ならスタッフクラスとして上司や周りの同僚に仕事を教えてもらったりかばん持ちのように上役についていくだけ、という年齢だろ。しかし私の両肩にはすでにとてつもない大きな重荷が課せられていた。誰もその重荷を共に担ってくれる人はいなかった。
ギリギリの中でも取引先には精いっぱい「強運に恵まれた若き新進気鋭の経営者」として鷹揚かつ敏鋭に振る舞った。自分の母親には安否の気遣いと「母を深く愛する従順で非常にできた息子」を与え続けた。その中、婚約者は「わかってくれるだろう」と思っていた。
こんな中、男性諸君は理解してくれるだろう、「嫁さんだけはわかってくれる」という甘えが出るものだ。すでに婚約しているのだ、連絡をしない、会いに行かない、それでも婚約し結婚する私たちだ。わかってくれるだろう。あんなにおとなしくて私にも双方の母親にも何一つ逆らわなかった。何一つ私のすることに反対しないだろう。
私は2週間ぶりにPPPN嬢に電話した。この時は、母の身辺の安否不安と鉱山が大雨で水浸しになるという二件が重なったときだった。今と違って、家のお手伝いが電話に出てPPPN嬢を呼び出し取り次いでもらう、という時代だ。電話を掛ける時間さえも気遣うのがマナーの時代だった。取り次ぐ間、私はこの2週間の間の不安と苦労をどう話そうか、何から話そうか、頭の中を整理しきれなかった。
「もしもし」PPPN嬢が電話に出た。「ああ、俺だよ、アルムスターファ、、、」名乗りきらないうちにPPPN嬢が言った。「あんたって最悪な男ね。私のこと、まったく省みない。あんたって、人の気持ちが全然わからない人ね。私がどれほど心配で不安であんたのこと信じられなかったか、わかる?」
あんたって最悪な男。あんたのこと信じられない。2週間ぶりに話をした婚約者は私のことをそう呼んだ。