夜刀(やと)の神ー古代人の畏怖と祀りー
太古の人々の神様に対する考え方をめぐる興味深い話が『常陸国風土記』に収められている
『夜刀(やと)の神』の話です。
遠い昔、麻多智(またち)という人物が、ある谷を開墾して水田を作りました。
そこに夜刀の神がぞろぞろと出て来て農作業の邪魔をします。
夜刀の神とは角のある蛇の事で、人々から恐れられていました。
しかし、麻多智は鎧を身に着け、夜刀の神たちを追い払いました。そして山の中まで追い込んで、その麓(ふもと)に堀を造り、境界を示す杭を打って
「ここから上は神の領域で、ここから下は人の田とする。今後は私が神主となって後の世までお祭りすることにします。ですから祟ったりしないで下さい。」
と申し上げました。
この物語からは『風土記』以前の古代人の神観念・自然観がうかがえます。
つまり、自然や生物を含めた自然物の威力をひたすら畏(おそ)れひれ伏すだけでなく、
これらの威力に神霊の存在を見出し、その神霊を丁重にお祭りすることで自然の脅威を和ませ、
農耕生活の安寧を祈ったのです。
『神社のいろは・続』監修・神社庁より
と、いう事で、今では神社も立派な玉垣・鳥居・社殿があり、
祈願内容も現代生活に合わせて多種多様で、
お祭りと言ったら神輿を担いだり屋台が並んで楽しい賑わいを感じさせるものですが、
遠い昔には、農耕社会での邪魔者退治、境界問題、自然災害対策だったんですね。
しかし、今では学問研究も進んで、そうした自然に対する畏怖の念や霊力を感じて祀ることは少なくなっているようでいて、まだまだ思わぬ自然の霊威を感じる事もあります。
今朝もニュースでどこかの神社に落雷があって社殿が燃え、鎌倉時代からの重要文化財を焼失してしまい、宮司さんも「まさかこんなに近くに落ちるとは思わなかった」と困惑した顔で映し出されていました。
また、このところずっと北海道の長万部の神社近くの森林の中に水柱が噴出し続け、防音の為の工事をしようとした日に地中のガスが抜けきったらしくて収まったとか。不思議なものです。