瓊瓊杵尊と木花開耶姫の御子のうち、
兄神の火酢芹命(ほすせりのみこと)は、よく海の幸を得て、
弟神の彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)は、よく山の幸を得ていました。
ある時、お二人はお互いの道具を取り替える事にしました。
兄神は弟神の幸弓を持ち、山に入って獣を探されましたが足跡さえ見つけられませんでした。
弟神も兄の幸ち(「ち」は釣りのつくりのほうが句になった漢字)を持ち、海に行って釣りをされましたが全く釣れず、しかも釣り針を失ってしまいました。
そうして弟神は悩んで自分の刀で釣り針を沢山作り、兄神に渡されました。
しかし兄神は、「やはり自分の釣り針が欲しい」と受け取らず、
弟神はどこを探せばよいか分からずただ憂いさまよい、海辺でたたずみ嘆いておられると、
一人の老人が突然やってきました。
老人は塩土老翁(しおつつのおじ)と名乗り、
「あなたはどなたですか。どうしてここで悩んでおられるのですか?」とお尋ねしたので、弟神の彦火火出見尊は詳しく事情を話されました。
老翁は、袋の中の黒い櫛を取り出し、地面に投げると竹林になったので、その竹で目の粗い大目あら籠(おおまあらこ)を作り、彦火火出見尊をその中に入れて海に投げました。
或いは、無目堅間(まなしかたま)で舟を作り細い縄で彦火火出見尊を結び付けて沈めたとも言われています。かたまとは今でいう竹かごのことです。
すると、海の底には美しい小浜があり、浜に沿って進まれるとすぐに海神(わたつみ)の豊玉彦の宮に着かれました。
その宮は大きく美しい城門があり、楼閣も立派で麗しく門の外には井戸があり、そのそばに桂の木がありました。
(つづく)