伊弉諾尊(いざなぎのみこと/男神)があとを追って
伊弉冉尊(いざなみのみこと/女神)に追いついたとき、
「お前の事を悲しく思ってやってきたよ」
とおっしゃいました。
伊弉冉尊は
「あなたよ、どうかわたしを見ないで下さい」
とおっしゃいましたが、
伊弉諾尊は従わずに見てしまわれました。
伊弉冉尊は恥て恨み
「あなたは私のあるがままの姿を見られたので、私もあなたのあるがままの姿を見ましょう」とおっしゃったので、
伊弉諾尊もまた恥ずかしく思われた。
そのため、出て帰ろうとされましたが、黙って帰らずに
「離縁しよう」とおっしゃり、さらに
「お前には負けないぞ!」と言って唾を吐きました。
この唾の神が速玉之男(はやたまのお)と申します。
次に黄泉の穢れを祓われた時に生まれたのが、
泉津事解之男(よもつことさかのお)と申します。
そして伊弉諾尊が伊弉冉尊と黄泉平坂で争った時に、
伊弉諾尊は、
「初めに私があなたの事を悲しみ偲んだのは、私が弱かったからだ」とおっしゃいました。
その時、伊弉冉尊からの伝言を泉守道者(よもつもりびと)が、こう伝えました。
「私はあなたとともに国を生み終えました。どうしてまた生きることを望みましょうか。私はこの国に留まり一緒には戻りません」と。
ここで菊理媛神からさらに申し上げたことがあり、
伊弉諾尊はそれを聞いてお褒めになり、お帰りになられました。
伊弉諾尊は泉(よもつ)国を見られたのは不吉な事なので、その穢れをすすぎ払おうとして、
粟門(あわのみと=阿波のこと)と、
速吸名門(はやすいなと)をご覧になりました。
この二つの門の潮の流れは大変早いので、
橘の小門(おと)に戻って身を濯がれました。
水に入って磐土命(いわつつのみこと)を吹きなされ、
水から出て大直日神(おおなおびのかみ)を吹きなされました。
また水に入って底土命(そこつつのみこと)を吹きなされ、
水から出て大綾津日神(おおあやつひのかみ)を吹きなされました。
また水に入って赤土命(あかつちのみこと)を、
水から出て大地と海のもろもろの神を吹きなされました。
【私のつぶやき】
伊弉諾尊は、亡き妻に対して最初は悲しみ偲んでいたのに、
黄泉の国で再会したら敵対心をもって唾を吐きかけるという・・・。
ひどい、あんまりな展開。
で、その唾さえも神様になる。
なんだか、天地・黄泉の国を巻き込んだ壮大な夫婦喧嘩でした。
そして出ました!白山信仰の御祭神、菊理(くくり)媛神。
他の本文や一書(あるふみ)には現れず、ここだけに登場する。
果たして伊弉諾尊に申し上げてほめられた言葉とは何だったのか?
いつも気になるけど永遠の謎です。
菊理媛神の神名「くくり」は、「括る」「聞き入れる」に由来すると言われているそうです。
古くより山は死者の霊魂が行きつく場所と考えられていた。
これを山中他界観という。
菊理媛神は、死者である伊弉冉尊と生者である伊弉諾尊の間を取り持った事から、
山の神の言葉を伝える巫女を神格化した神とも言われているそうです。