以下 スマトラ島アチェ州の津波被害の状況および支援の現状についてNBF役員山口が作成したものです。

アチェ州被害状況

アチェ州の犠牲者数(2005年1月4日現在)
保健省のデータでは、犠牲者数は9万4100人にのぼると推定されている。行方不明者の数は1400人を超えている。内訳は、大アチェ1万6000、バンダ・アチェ1万5000、アチェ・ジャヤ1万5000、ムラボー1万5000、チャラン8000、北アチェ1540、ピディ1359、ビルン594、ナガン・ラヤ500、サバン500人、東アチェ224、ロスマウェ157、クルン・マネー117、シムルー6、南アチェ6、アチェの島々4000人。北スマトラ州の死者の内訳は、ニアス227、チュルミン海岸6、中タパヌリ1、メダン・アダム・マリク公立病院での死者が3。(Antara,05/01/04)

●大アチェ県メスジッド・ラヤ郡ヌフン村の避難民キャンプより
<キャンプ情報>
避難民数2493(女性1700、幼児285、乳児30、妊婦10、老人100)
<必要物資>
食糧(コメ、インスタントラーメン、食用油、砂糖、ミルク、飲料水、卵、塩、緑豆、ビスケット、赤ん坊ミルク)、衣料(上着、ズボン、下着、ブラジャー、生理用ナプキン)、テント、ゴザ、建築資材、医薬品(下痢止め、マラリア、風邪、解熱剤)、毛布、蚊よけ、コーラン、サルン、文具、食器、石鹸、タオル、歯ブラシ、歯磨き粉、洗剤、発電機、ろうそく、懐中電灯(PEKA, 05/01/04)

●ボランティア、カネをせびられる
「アチェ民衆運動連帯(SEGERA)」は4日、メダンからムラボーにタパック・トゥアン経由で入ろうとしたボランティアたちが、制服を着用した人びと(訳注:国軍)に4万から5万ルピアのカネをせびられたと明らかにした。制服を着た人びとは、検問をおこない、身分とボランティアが運んでいる物資すべてについて尋ね、その後、物資をポスト(詰所)に置き、ボランティアが配給できないようした。
理由は、物資が自由アチェ運動(GAM)の手に落ちるのではないか懸念されるから、というものだったという。「ボランティアは、軍服を着た人びとに妨害された。
彼らはガソリン代を購入するという理由でカネを要求してきた」(Kompas,05/01/04)

●華人差別の噂はウソ
携帯メッセージで、アチェ被災者のなかでも華人系が差別されているという情報が流されていることについて、華人系インドネシア人協会(INTI)ジャカルタ代表は、たしかに小さな事件が起きているが、パニック、ストレス、絶望、飢えの状態にある被災者の混乱状況では当然起きうることであり、華人に対してのみ被害があるわけはないことを明らかにした。例として、以下のような事件が起きている。
・ベチャで家族の遺体を収容しようとした華人が40万ルピアの支払いを請求された。しかし、これは金持ちと考えられる誰に対しても起きてている。
・略奪に遭った華人系商店もあるが、ストレス状態にある人びとがなしたことである。また略奪に遭った商店にも、遺体が転がっているのをみて、彼らもその場を離れていった。
・物資配給において、係員は、本当に何もない人びとを優先している。INTIボランティアの華人も、それは同じだ。完全に正しいわけではないが、華人は金持ちだという概念があるために、華人が後回しにされるということが起きるのだろう。
・地震当日、空港からメダンに避難した多くが華人系だったのは事実である。しかし3日目以降は華人、非華人関係なくなり、華人系被災者も費用がないために何日も空港で待っている状態だ。なお空港職員のなかには、高くチケットを売りつけようとする人もいる。
・牧師が、教会前の被災者の収容に助けを求めたが無視された。しかし、これはみなが行方不明の家族を探すので必死でストレスになっているせいである。
(INTI, 05/01/04)

-----
以下2本の記事について、アチェにおける軍事作戦の正当化、支援活動を熱心におこなう国軍いうイメージづくりのためのものである可能性を否定できない。しかし現在必要とされているのは、対自由アチェ運動(GAM)軍事作戦ではなく、被災者への人道支援である。また国軍兵士と同様、GAMもまた家族を失った被災者でも
ある。
-----
●国軍、避難民から略奪したGAMメンバーを逮捕
治安回復作戦司令部付けの陸軍戦略予備軍兵士は3日、北アチェ県ガンダプラ郡カンプン・ラゴンのヌネ・トゥトン村の避難民キャンプから「徴税」しようとしたGAMメンバー(16歳)を逮捕した。なおこの部隊は、避難民とともにトイレ、ベッド、共同台所、テントなどを設置し、無料の治療をおこなっている。 (MediaIndonesia, 05/01/04)

●GAM、避難民キャンプに潜伏
リャミザード・リャクドゥ陸軍参謀長は4日、GAMメンバーが避難民キャンプに潜伏しはじめているとして、監視を強めていることを明らかにした。リャミザードは全兵士に対し、避難民への支援がGAMに盗まれないよう、監視を強めるよう命令している。(detikcom, 05/01/04)

■2005年1月5日

●国軍の援助、その家族を優先?
海外からの援助、政府機関からの援助はすべて、軍用機で送られ、ブラン・ビンタン軍用飛行場に積み上げられている。住民もNGOも、その物資にアクセスすることはできない。インドネシア国軍が物資をコントロールし、国軍兵士の家族を支援することを優先している。(現地からの情報, 05/01/05)

●国軍、武器流入に警戒
サフザン・ヌルディン海軍少将は5日、津波災害後の遺体収容、再建、復興活動のほかに、支援物資が自由アチェ運動(GAM)の武器を流入させるのに利用されないよう監視をおこなっていることを明らかにした。「アチェの出入りは、すでに警戒されている」。サフザンはまた、国軍が、支援にあたっている外国軍との連絡をとりつづけていると付け加えた。しかし国軍が、外国の部隊がGAMに支援を与えると、容易に疑うわけではないという。「問題がないように願っている」(TEMPOInteraktif, 05/01/05)

●人道のためのボランティア・チーム活動報告
バンダ・アチェでピープルズ・クライシス・センター(PCC)(訳注:長く避難民支援をつづけてきたアチェのNGO)と調整を図りながら、活動をし、現在、ボランティア2人をムラボーに派遣している「人道のためのボランティア・チーム(TRK)からの活動報告。
<アチェ状況>
現在も遺体収容作業が進められている。瓦礫の下に、まだ多くの遺体があると考えられている。バンダ・アチェには現在、50の避難民キャンプがある。避難民の数、出身については不明。
<保健・衛生>
PCCを助ける保健スタッフは十分でない。バンダ・アチェに保健スタッフはいるが、一部に集中しており効率的でない。医薬品は不足している。飲料水を得ることも困難である。
<必要とされる支援物資>
コメ、魚、灯油、食用油、コーヒー、紅茶、砂糖、石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉、洗剤、ビタミン、マラリア予防薬、蚊よけ、上着、懐中電灯、電池、ゴム長靴など(TRK, 05/01/02)

■2005年1月6日

●アチェNGO「SEGERA」「IKARA」の共同声明
<要旨>
援助に遅れが出ているなか、アチェのNGOが政府への要求をまとめたもの。国軍による援助活動の妨害について調査することを政府に求めるとともに、政府と自由アチェ運動(GAM)との停戦を呼びかけている。(SEGERA+IKARA, 05/01/04)
<抄訳>
 同じように災害に見舞われたほかの国々と比較すると、インドネシア政府は、その対応において大幅に遅れをとっている。インドネシア政府は、崩壊したインフラの修復について言及すらしておらず、また、トラウマを負ったアチェの人びとのための具体的な政策も一切打ち出していない。
 インドネシア国軍はなおもスウィーピングス(検問)のような抑圧的な手段をムラボー、ナガン・ラヤなどに向かおうとするボランティアに対しおこなっている。さらに、国軍はボランティアによっても運ばれた物資を、すべて一度国軍ポストに集め、それから国軍によって分配することを要求している。
 避難民の状態はとてもひどい。1月1日には、いくつかの避難民キャンプで物資配給が途絶えた。また、メディアの届かないようなサマランガやピディの地域では、いまだに人手が足りず死体が放置されたままである。
 メダンのポロニア空港、アチェのブラン・ビンタン軍用飛行場で、物資は山積みになり、非効率的な分配によって、多くが無駄になっている。
 以上に鑑み、アチェのための民衆運動連帯(SEGERA)、アチェ民衆協会(
IKARA)は、以下を政府に要求する。
○危機的な状態にある地域への人道支援、遺体収容、ボランティアの動員を要求する。
○ボランティア(非戦闘目的の国軍・警察も含む)のより大規模な動員および、被害状況の深刻さに応じた配置を要求する。
○政府に、被災現場で起きている国軍によるさまざまな犯罪の実態を報告し、その責任をとるよう要求する。
・ボランティアに対する違法「徴税」(ムラボーで、4万から5万ルピア)
・国軍による被災者への人道物資の売りつけ(バンダ・アチェ、ビルン、ムラボーで発生、04年12月30日の報告)
・ブラン・ビンタン軍用飛行場で起きた国軍による救援物資の窃盗(1月3日の報告)
○国軍と自由アチェ運動(GAM)に対し、政府が停戦を呼びかけ、被災者のための人道活動に取り組むよう要求する。
○アチェの多国籍企業(エクソン・モービル、アルン、アセアン肥料社)に対し、最低5兆ルピアの寄付を災害の復興に拠出するよう要求する。
○遺体収容と犠牲者登録が終了していないため、いかなる人も、犠牲者の子どもを養子にしないように要求する。そして、政府に対し、アチェの犠牲者の子供の売買に対し、断固とした手段でこれを罰するよう要求する。
ジャカルタ、2005年1月4日、SEGERA・IKARA

●アチェで武力衝突
『オーストラリアン』紙は6日、バンダ・アチェから約40kmのロッ・ンガで、インドネシア国軍と自由アチェ運動(GAM)の武力衝突が発生し、3人のGAMメンバーが殺害されたと伝えた。事件を目撃した『オーストラリアン』紙記者とカメラマンは、特殊部隊司令官によって、その地域を離れ、事件について報じないよう命じられたという。GAMは先週、地震・津波後の救援活動のため停戦を宣言した。国軍は、先週3人のGAMメンバーを殺害した。国軍は、GAMが援助団体を攻撃したと主張しているが、GAMは強く否定している。(Laksamana.Net,05/01/06)

●武力衝突が救援活動に支障をきたす
USAID(米国国際開発庁)は米、豆、簡易浄水器などをメダンからバンダアチェに配給するため80台のトラックを確保した。しかし、メダンからバンダアチェまで陸路を行くのに3日もかかる。道路状況が悪いことと、国軍と自由アチェ運動(GAM)との交戦がつづき、危険な状態であることが車両の運行を遅らせている。
・2日前には国軍とGAMの銃撃戦があったため、救援車両が8時間足止めされた。
(The New York Times, 05/01/06)