自分がまだ学生だった頃
母がデパ地下の物産展で
箱入りの博多ラーメンを見つけて買ってきた。

その頃の東京には、まともな博多ラーメンの店がまだなかった。
当時デビューしたばかりの久留米出身のバンド
シーナ＆ロケッツのリーダー鮎川誠氏がライブのＭＣで

「東京には旨い博多ラーメンが無い！」

と嘆きながら
袋麺の「うまかっちゃん」の宣伝をしていたのを
何となく覚えている(笑)

福ちゃんラーメンが東京に進出して築地にその一号店を出すのは
数年後の８４年の事である。

その箱入りラーメンには２食分の博多ラーメンが入っていて
今思えばかなり高価だった事を記憶している。

箱の中には半生状態？の極細ストレート麺２束。
スープは何とレトルトのストレートタイプ。
レトルトごと沸騰したお湯で温めて
希釈せずにそのまま使用するタイプなので
お店とまったく同じ状態を再現できる。
他に紅しょうが、乾燥青ネギ、白ごまが入っていたと思う。

当時の東京では
乳白色のスープに紅生姜が入っていれさえすれば
すなわち博多ラーメン
といった程度の認識だったのだが･･･

その箱入りラーメンのスープは
なんと驚いた事に、まるで白くはなかったのだ。

薄茶色にドロリと濁り濃厚で脂ギトギトなそのラーメンのスープは
それまでの博多ラーメンの認識を根底からひっくり返すほど
衝撃的で、そして絶対的に旨かったのである。

そのラーメンの箱には
「一心亭」
という３文字が書かれてあった。

その後社会人となり
仕事で福岡に行く機会も増え
中洲や天神で旨いと評判のラーメン屋は
時間の許す限り足を運んで実食した。

前出の長浜の一心亭はもちろんの事
元祖長浜屋、東京に進出する前のキャナルシティーの一蘭や
博多だるま、天神バス停前の赤のれん、
長浜公園前のやまちゃん・・・
ちょっと足をのばして
薬院の凶暴ギトギトな八ちゃんラーメンにも
若気の至りで何回も行き
そのあまりの濃厚さに遂には胃の具合が悪くなった事もあった(笑)

長浜公園前のやまちゃんでは、店員にラーメンをひっくり返され
全身にラーメンを浴びるという前代未聞のハプニングに襲われた事もある。

とにかく若かったあの頃
博多の夜といえば
屋台と酒とラーメンで
行く度に必ず何かひと騒動あったような気がする。

そうやって福岡のラーメンを食べているうちに
ふとある事に気が付いた。

同じ博多ラーメンといっても
やはりスープの色が薄茶色だったり
乳白色だったり（中には牛乳のように真っ白に近いものまで）
いろいろあるのだ。

さらに店によってラーメンの表示が
博多ラーメンだったり長浜ラーメンだったり。

自分は博多ラーメンの中でも長浜地区のものだけが
長浜ラーメンと名乗っているのだとばかり思っていたのだが
どうやらそれは違うようで･･･。

博多ラーメンのルーツは博多の鍋料理屋が発祥で
元来は鳥ガラスープの薄口しょうゆ味。
麺もそんなに細くはなかったらしい。
今の博多ラーメンのイメージとは大分かけ離れた
ものだったようだ。

一方の長浜ラーメンは長浜市場の労働者用の屋台が発祥のラーメン。
回転を速くするために極細麺を使用した。
替え玉のシステムも長浜ラーメンが生み出したアイデアらしい。
スープもドラム缶をガンガン炊き続けて作ったため豚骨が白濁して
独特の乳白色のスープになったとの事。

その後、博多ラーメンも長浜ラーメンのように
スープに豚骨を取り入れるなどしてきたため
時代の流れとともに両者の違いが曖昧になってきて
現在に至っているようである。

･･･てな事を
当時の福岡営業所のスタッフから教わった。

さてさて
本日私が食べたラーメン
地元神奈川中央林間にあります

博多白天

東京博多ラーメン考