長編児童文学新人賞佳作作品~「猫たちのいる家」1③ | 言葉の羅針盤~人生・起業の悩み解決

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猫たちのいる家

 1,新しい家③


「はあ」
 この家、いったい何匹猫がいるんだろう。
 広いリビングには天井に届くキャットタワーがあって、そこには玄関に出てこなかった大人の猫が一匹、子猫がもう一匹いた。今まで見た猫を合計すると、八匹。猫やしきだ。

 でも猫やしきのイメージはまったくなくて、家の中は掃除がきちんとされてセンス良く飾られている。由里さん本人も、品があるおしゃれをさりげなくしている。

 由里さんが、優しい笑顔のままできいた。
「お部屋で休む? ここでのんびりしていてもいいし、それより勉強したほうがいいかしら」
 

できれば、部屋に一人っきりになりたかった。期末テストも心配だった。でも由里さんは、どっちを望んでいるんだろう。一緒にここにいるといったほうがいいだろうか。それとも由里さんも、部屋にいってほしいんだろうか。

 心の中を探るようにその笑顔をみつめていると、
「痛っ!」

 足を、子猫の一匹がかじっていた。本気でかんではいないようだったけれど、けっこう痛い。
「だめよ、チャチャ」
 由里さんが子猫の口もとに優しく手をおいて、あたしの足からそらした。

 茶トラ模様の子猫。小さくて、かわいらしい。こういう時は、だっこするのが正解だよね。抱きあげてひざに乗せると、子猫はごろごろとのどをならした。

「チャチャって言うのよ」
 由里さんはあたしと子猫を嬉しそうに見つめた。

「猫たちと遊ぶ?」
「あ、はい」
 ほんとは、そんな場合じゃないけど。
「じゃあ、そっちのソファにどうぞ」
 言われるまま、子猫を抱いてソファに移動した。他の子猫も二匹、ソファにかけあがってきた。

 ソラくんと呼ばれたマンチカンは、ソファに登りたいようだけれど、なかなか登れない。
「脚が短いから、登れないの?」
 ソラくんに話しかけると、由里さんが答えた。

「この子は脚の関節に傷害があって、高い所には登れないのよ」
「あ、そうなんですか」
 歩いているのを見ていると、確かに少し歩き方が変だった。


「マンチカンは、脚の関節に障害がでやすいの」
 由里さんが説明する。
「マンチカンは今とても人気があって、禁止されている危険な交配までするブリーダーがいるから、こうして傷害が出る子が生まれてきてしまうのよ」
 

その顔は、とても悲しそうだった。
「わざわざ、傷害がある子を買ったんですか?」
 おどろいて聞くと、

「いいえ。愛護センターから保護した子よ」
「愛護センター?」
 由里さんが声を低めた。

「捨て犬や捨て猫たちを、処分する場所よ」
 処分……。つまり、殺しちゃうってこと?
「商品にならないから、ブリーダーが愛護センターに捨ててしまったのよ」

 あたしは、ソラくんを見た。
 ぱっと見、今流行のかわいらしいマンチカンの子猫。雑種じゃない、価値のあるはずの血統種。それが傷害を持って生まれたせいで、捨てられた。

 おまえも、捨てられたんだ。


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続く


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