七年前の今日2月13日、四谷三丁目の事務所に外交から戻ってきた。

「先生! 大変です」

「先生 携帯忘れて出ていかれたでしょう?」

ジャケットの内ポケットをまさぐると…

「アァ…」

スタッフの女子マネージャーが矢つぎ早に。

「それはいいんですけど 先生の携帯何ども鳴るので 代わりにでたんですけど 妹さんから」

「妹?」

大阪から上京して3年、また大阪でも妹とは音信はめったにない。

それどころか、両親とも「うーん」最後に会ったのは38才の頃だから7年ぐらいになる。

決して孤独マニアでもないけど、家庭をもち僕の目的をただひたすら仕事に一辺倒。

その堅物が、いつしか家庭に綻びを生み家庭生活は挫折した。

ただシングルに戻っても、仕事は挫折することなく業界一筋、階段を昇り詰めていた。


「岩崎さん それで?」

「お父様が亡くなられたらしいですよ!」


そのときは、不思議に冷静だった。


【死生観】といえば経験則でもないだろうけど

自意識がついてからは、最初に高校生の頃彼女の死を体験して。

その後は子供の生を立会って神秘の世界を垣間見て。

そして母親の母、お婆ちゃんの死に目には、孫のMVPだった僕が急遽真夜中に母を乗せて車で向って病院で体験。

それ以来の一親等の死。


妹に電話すると、どうも内々での葬儀らしく、スタッフにあとは任せて一路大阪に向かった。

そうはいいながらも大阪の顧客に電報だけをおやじのはなむけにした。


会館につくと、母、妹、叔母がもりをしていた。

あたりまえのように、不肖などら息子に「もおぉ~」と罵声。

そのとき、とにかく父を支えてくれた大奥には頭があがるわけもなく、黙して語らずに徹していた。

ただお通夜に地元の親友が駆けつけてくれ、弁護してくれると思いきや大奥の援護射撃。

でもそこは久しぶりの談話に和んでいった。一点をのぞいては…

「ところで 兄貴は?」

母が

「体調がどうしても悪くて…」

「そっか?」

深くはつっこまなかった。


大奥連中を仮眠させて、お通やのオヤジの守は僕が引き受けた。

ヘンコツの父とは言いながら、剣道をこよなく愛した師範らしく、結果はどうあろうと筋道一本って感じだった。また子供すきで動物好きな昭和のうさぎさん生まれ。

僕は幼少のころから向っていってたけど、親父の横綱相撲にやられてベソをかきながらも、どこかすがすがしさを憶えている。

また社会にでてから酒を飲み交わしたり、男同士の先輩後輩のような記憶もある。



ただ晩年は、両親と音信が少なくなってから、たまに音信したとき、電話にでたオヤジは。

「たまには お母さんには音信とったりや」


ただ僕が負けずぎらいとは言いながら、オヤジに七年も再会できなかったことには悔やんだ。

そして、棺おけのオヤジを見ながら咽びながら号泣することしかできなかった。


翌朝大奥三人が起きてきて、母は「もう うるさくて眠れなかった」といの一番ゲンコツ。

静かに号泣したつもりが睡眠妨害をしていたようだ。


そのあと、内々とはいいながらオヤジの親戚が駆けつけて息子として対応した。

大奥三人もそのことだけは不肖な息子とはいいながらも感謝された。


そしてすぐさま上京しないといけなく、帰るまぎわに妹にせつかれ母が。

「進ちゃん じつは お兄ちゃん教えてもらっていた電話つながらなかってん」

「そっか!」

その後次の法事を連絡してと言って会館を後にした。


その後の法事は実家で行うとのこと。

その法事で十数年ぶりに兄とまさかの再会。

兄曰く

「新しい連絡先教えていてんけど…」

なにはともわれ、オヤジの死を通して再び母兄弟妹がおやじのもとに…


その後法事は 去年無事七回忌まで行えた。

母もこのさきどこまで余命があるのかわからないけど、安らかに生きてほしい。


今年つい一週間前兄から

「進ちゃん 13日月曜日どうしてるの?」

「なんで?」

「おやじの年命日やろ 一緒に東京の…寺に行こうかなっておもって」

「わかった 空けるよ」


あと兄貴に

「ところで おやじ享年何歳やったけ?」

「77歳やで」

持病もちの僕としてはひとの寿命などわかるわけもないけど。

「そっか そこまで自信ないな!」

「兄ちゃんはがんばってや」

「わしも 自信ないわぁ」

「あほ兄貴 あんたは葬式来ぇへんかってんから しっかり墓守せなあかんで!」

「あははぁ…」



振り返って

オヤジの生き様は

自身への厳しさ

そして

自身への負けず嫌い

そして

頑固一徹なくせに

じつは涙もろい

あとは何と言っても

その支え

九歳年下の

愛しの

母なくして

なかったように思う。


母が漏らしたことがあるオヤジが入院中一回だけたずねたと

「かっちゃんに しんちゃん どうしてんねん?」

母は、「知らんは!」

それ以来二度と口にしなかったと……



オヤジありがとう!

まだまだ心配してるだろうけど

懺悔と感謝を忘れずに

自身に厳しく

少しでも心配減らせるよう

残りの道のり頑張ります。







END