第一話【偶然の産物】



以前に案件の仕事で親交のあった人と、出張で地元に帰る機会があり、待ち合わせをしていた。

待ち合わせの定刻どおり、地下鉄の本町駅の2番出口を懐かしい顔が駆け上がってきた。



「藤枝さん お久しぶりです」

「やぁ! ひさしぶりだね!」

「もう 六年になるかなぁ」

「そうですね!」


懐かさを憶えながらしばらく会話していた。


「ところで 藤枝さん! 今の仕事お近くですか?」

「ううん! 違うんだけど」

「田村さん 大阪では港のほうでしょ?」

「そう思って!」

「エェ!? 違いますよ! 野田ですよ!」

「ええ!? なんだぁ! じゃ同じ沿線だ!」

「じゃぁ ここで会食するのはやめよう」


その後、どこに行くとも言わず先導していった。



途中、繁華街のなんばを通るにも関わらず、わき目も振らず沿線に乗り込んでいった。

電車の中では久しく、親交を深めていた。ただ、いったいどこで会食するんだろうと思ってると。

とうとう、僕の駅に近づく。


「さぁ! 降りるよ」


エェ!? 僕の駅はローカルでこれって飲食店少ないのに?まぁ、とにかく、連れられていった。

すると、駅を降りてからも、一目散に先導して、外観は、少し古びているけど年代を感じる小料理屋の暖簾をくぐっていった。


中から愛想のいい甲高い声で女将が


「あら! いらっしゃい 藤枝さん!」

「もう ご無沙汰やんか!」


なになに、地元の料理屋の常連なんだ! そんな憶測をしながら案内されて。


「女将! 今日は東京から客人お連れしたよ」

「あらそう いらっしゃい!」

「どうも!」


憶測はおいといて、とにかく藤枝さんと長年の積もる話に華を咲かせていた。



僕と藤枝さんとの間柄は、年齢こそ僕より十歳上だけど、以前、総合不動産会社でカリスマ会長のもとで、いろんな案件で会長の助さん角さんのように執務していたことがあった。


彼もつい数年前に定年になり、新たな会社で嘱託をしていて、以前の職場のOB会って感じで逢っていた。


話の華も満開になり、小休止の意味で、藤枝さんは、女将のアシスタントに話しかけた。


「ミエちゃん! 東京からお連れしたよ!」

「そうなんですか?」


ただ、しばらく僕の顔を見渡しながら


「わたし 見たことある!」


はぁ? 地元離れて数十年、まして故郷離れて足掛け十年近くなのに!

(そんなあほなぁ!)って思いながら。


「またまた 口うまいなぁ!」

「ううん! 幸田のひとちがう?」


エェ!? 確かにそうやけどと内心思っていた。その後は、地元ネタを根掘り葉掘りしてみると、

小学校、中学校と同じ。高校は違うかったけど同じ学区でとどめは、ひとつ後輩って判明。


ただ、小学・中学では、同級や先輩とかは記憶があるけど、後輩は当時つるんだ記憶は皆無。

どうしても納得いかず、彼女に営業トークと詰め寄っていた。


藤枝さんは、この子は口はあんまり上手じゃないし、おべんちゃらも言わないよって弁解していたけど…


そんな偶然が偶然を呼び、藤枝さんと6年ぶりの再会。ひとつ下の後輩と三十五・六年ぶりの再会があった事は、脳裏に鮮やかに残っていった。


そして、後輩がたびたび口にしていた。


「帰っておいでよ」


脳裏をこえ、心に沈殿しているのを、感じずにはいられなかった…





第二話