なにやら霧の向こうから聞こえてくる

「お疲れさま」

かあさんだぁ!

「やっと、かあさんに逢えたね」

相変わらず、和やかな微笑み。

「いつくるか、いつくるかって、待ってたのよ」
「ただ、おとうさんと一緒だと 嫌だなって」

えぇ!? 耳を疑った。

母さんが死んで、その命と引き換えに僕が生まれた。
僕は、父さんにとって母さんそのもの。

「どうして?」

「あなたはね、かあさんと生まれ変わってくれて」
「おとうさんの生きる糧」
「ただね、切なさの象徴でもあったの」
「あの人は、根っからの人好き」
「馬鹿みたいに、斬られても、斬られても」
「いいかげん、斬られて、終わらないといけないのに」
「起き上がって、これじゃ死ねないだろうって」
「身体張って、死ぬようなひとなの」


「だから、周りからはヘタな正義感だって、言われるんだけど」
「ただ、あのひとは、首をかしげるどころか」
「すいませんって、人に頭をさげるんじゃなくて」
「不肖でしたって、天に頭さげるような人なの」

「ただね、人は生身でしょ、斬られたら痛い」
「あの人は、やせ我慢して、独り包まって唸ってるの!」
「だから、かあさんが、そっと、消毒液と包帯置いとく役目だったの」

「でも、これも血統かな? たぶん本人は気がついてないけど」

えぇ、血統? 
父さんの天然のあの性格は?
ひさしぶりの母さんの話をただ頷き聞いていた。

「そう、あの人のお父さんは警察官」
「あの人のお母さんの父も警察官、母は華道の先生」
「あの人の血筋には、本能てきに、義を重んじて、伝統を引き継ぐ、裏方がしみついている」

「ただそんな中、あの人は、突進型で、」
「当たって砕けて、そして起き上がって」
「馬鹿みたいに また当たっていく!」

「ただね、あのひとは 他人事まで、我が事にして」
「自業自得って、持って帰ってくるから 大変!」
「これも、血統かな!」

「あとね、あの人は父まで突進していっていたのよ」
「でも、あの人は、大のおばあちゃん子でもあったんだけど」
「都会のど真ん中を、周りなどおかまないなしに、」
「疲れたおばあちゃんをオンブしてたりして」

「あのひとのお母さんの姉妹が涙してても」
「ハテって顔をしてるような・・・」
「ほんと、掴みどころがない人ね!」

「でも、あの人に初恋して、はまってしまったわ」
「そして、直球で労わるとだめだから」
「変化球で労わるんだけど」

「独りトイレで ごめんなぁって 号泣してるだよ」
「そんな人が、あなたのお父さん」

「私が、早くに天に引き裂かれたために、その後」
「あなたには、気苦労が多かったでしょ!」


確かに、父さんの猛攻突進抑えるのは大変。
でも、母さんがいうように、シャイなのかどうか知らないけど
なんでもかんでも、我が事にして、感受して、痛い想いして、やせ我慢。
案の定、独り号泣してたな!

可哀想だから一緒に号泣してあげたけど。
父さんは、いつも僕には、頭ばっかり掻いていたけど。
ただ、僕が別に平気なことでも
下手な正義感ふりかざして

「これはアカンって!」
いきり立っていたな。

ただ、僕がなだめると、
「はい、かしこまりました」
ようわからんひとやったけど

母さんの話聞いてわかったような気がするけど・・・
っていうか、わかろうとせんでもいいのかも!
だって、本人も理解しようとしてないし、

おそらく、血統で片つけているような気がする。
本能で動いて、後から理論付けするひとだから(泣)

それはそうと、母さんのとうさんと一緒でないほうがって?
「ねぇ! 母さん 父さん置いといていいの?」
「結構、老いてきてるよ!」


「うん! 実はね、私の気苦労を放免してくれたの」
「人の悟りって、ある所にこないと見えないことってあるのね」
「お坊さんがどんなに悟りの修養をつんでいても」
「ある階段にこないと学べない教科があるような感じかな」
「遠くで見えなかったことが、近づいてきて見えることってあるでしょ」
「そんな感じかな?」
「あんまりよく知らないけど」


「人は心の中でいろんな階段に出くわし」
「人の心の中で葛藤して悟っていけるように」
「導いてもらう感じね」

「俗にいう、六道ってやつ?」

「そう!それをもう少し細かくした階層に」
「地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天界」


「なんとなく分かるけど、天界って?」


「そうね、例えていえば、生まれもって資産家みたいな」
「人に羽が生えていて、地上のことなど分からなくても、歩める」
「ただ、死ぬときは羽がなくなるから、ほかの世界と死ぬときは一緒」
「だから、次の転生のときに、地に足をつけて歩まないと 苦労するかも?」


「なるほど」

「そして、声聞、縁覚、菩薩」

「お坊さんみたいな感じだね」

「そうね!」
「そして、仏の世界」

「悟りの境地だね」

「うんうん!」
「ところで、メロウは、いつその境地にいくの」


「死んだあとでしょ」


「うーん そうかも知れないけど」
「生きてるうちに、できるだけ、有意義な階段にいたいでしょ」


「うん もちろん!」


「だから、生きてるときに不幸に、地獄・餓鬼・畜生・修羅に」
「出くわすことになっても」
「当たり触らない人間や、我が介せずみたいな天界より」
「これはひとそれぞれの考えだけど」


「私はよ、少しでも勉強してその上の世界で歩みたいなぁ!」

「人生、一生勉強って言われる所以だね」

「そう!」
「だから、あの人も、遠くで見えなかったけど」
「私に近づいてきて、見えてきたんじゃない」
「あなたにいつまでも、頼っててはいけないと」
「あなたを解放しないとって」
「そして、なにより、私が勉強する時間を作らせないとって」


でも、僕がいないと、とうさん大丈夫かな?

「メロウ! だめだめ」
「ちゃんと、渡って来ないと」

「あは ばれた?」

「私も経験したから(笑)」
「ほら、あの人には、同じ修養を目指してる友が あんなに居てるでしょ」
「それと、あなたをこよなく愛してくれた 人たちが 涙してくれてる」
「あのひとは、鼻つまらせて 号泣してるけど・・・」

「ところで、メロウ?」

「うん!」
「どうして、思い切ったの?」


「うーん 平気じゃないことがあって」
「でもさ 必ず、いきり立つのに、とうさんがいきり立たなくて」
「おまえは、もう母さんのところに行きなさいって」

「ところで、そのことが片ついたら残ってた?」

「もちろん、だって父さん心配だし、ほかにもいろいろ」

「でしょ!」

ハテ?

「父さんもね、出来事の真意を見抜いたの!」
「だって、あの出来事、実は私が畜生仮面かぶったんだもん!」

「えぇ! 母さんの仕業!」


「あの人ね、この間から、もう大丈夫だって 言ってきてた矢先で」
「私、本当かな? それで試験したの!そしたらクリアでしょ!」
「あのひとも 年輪をそれなりに重ねて、成長したみたいね!」


「じゃ! メロウ!」
「そこまでは行けないけど、此処で待ってるから」
「ちゃんと懺悔と感謝して、自分の足で渡って来なさい!」
「人はどの階段にいようが本人の自由」


「輪廻転生、こればっかりは、誰が決めてるか知らないけど」
「メロウ! 母さんと父さんと一緒に勉強しよう!」


「はい! かしこまりました」


「あなたも 血統かな(笑)」