行きつけの料理屋で女将さんと、

他愛無い会話をしながら手酌酒していた。


程なく酔っ払った、二人連れの恰幅のある常連さんが女将さんに。

「女将!お愛想して!」

「はぁーいっ♪」

「待ち合わせまで、時間あったから寄ったけど、もう出来上がったよ!」

「それはそれは、ありがとうございます!」

「今から、若い美女のところへ!?」

なにやら、お愛想の前に、掛け合いが始まったようだ。

しばらく、聞き耳が立っていた。

「いやいや、最近は、どうも若い子とは、話が合わない」

「エェッ!? 銀座の美女は話上手でしょ?」

「それが、どうもタイミングがずれるんだよな!?」

女将との掛け合いに、もう一人の紳士が参入してきた。

「女将! 男女の関係で、法則があるんだってよ!」

「え~ そんなのあるんですか?」

紳士の、なにやら講釈が始まった。

「この前、とある医師と会食したんだけど」

「クラブの女の子に始まり、リアルな乙女に至るまでの」

「いろんな関係のコミュニケーションが円満にいく」

「年の差の法則を教えてもらったんだよ!」

「それがね、どうも」

「男性の年齢の半分に十歳足した年齢以上らしいんだよ!」

「ただ、銀座での酒の上の話だから、真偽は定かじゃないけどね!」

「アハハハ」

法則を聞いて、もう一人の紳士がなにやら、計算しているようだ。

「ん? 僕の場合は六十五だから・・・」

「四十二点五歳からかぁ!」

「ところで、女将は十分入ってるよな?」

「いえ残念です、この前成人式迎えたばかりだから」

「あははははっ」

僕のほかに数名いたお客も交えて、爆笑の渦に巻き込まれた。

そして、千鳥足で二人連れの紳士は法則をかばんに詰めて銀座の夜へと・・・。


法則を間にうけた僕は。

「そっか、じゃ僕は三十五歳からの女性かぁ!?」

頭で計算しながらつぶやいていた。

そして、未だに別れの原因が解明できてない直子を振り返っていた。


今から十年まえ・・・

彼女とは埼玉と大阪の遠距離恋愛。

遠距離のリスクを、電話やメールやインスタントメッセージなどで回避しながら、

デートも月に二・三回のペースで遠距離から近距離へと近づいていた。

予定では一泊もついつい延泊になり、有給休暇も結構消化していた。

付き合い始めて、八ヶ月が過ぎた初めての二人の夏休み。

「ねぇ! いつもあなたからだから、今度のお盆休みは」

「私から、大阪に行っていい?」

「はんま?」

「うん」

「じゃ! どっか温泉でも行く?」

「ワーイ♪」

こうして、彼女は埼玉から大阪へと

それから、兵庫県の城之崎温泉旅行へと一泊旅行へとでかけた。

楽しい時間は、F1なみにあっという間に過ぎていった。

帰りの新大阪での、彼女の見送りでは。

「気をつけてね!」

「う・・ うん! 淳もね!」

「ねぇ 大丈夫だから もう行って!」

定刻より前だけど、涙を浮かべながら訴えてきた。

「わかった! じゃね!」

彼女の唇にお別れのキスをして16番線ホームをあとにした。

ホームから階段に差しかかったときに発車のアナウンスが・・・

あの時は、アナウンスがホイッスルに変わり、反転して新幹線に飛び乗っていた。

「あの、横の席、よろしいでしょうか?」

混んでない自由席で、かばんが置いてあるにも関わらず、声をかけた。

「す・すいません!」

指定席と勘違いしたみたいで、恐縮しながら振り返る。

「んもぉー!! 淳!」

そして、またまた、二人の延長戦へと・・・

その後も、遠距離を感じながらも、二人の親近な時を過ごした。

それが、秋も深まり冬の声が聞こえた頃に、一通のメール。

「淳! ゴメンネ!」

「サヨナラ・・・(泣)」

「ん? どういうことなんだろう!?」

意味不明ですぐさま電話しようと思ったけど、とにかく、心を一日寝かせた。

「もしも~し」

「淳!」

「この週末そっち行くけどどう?」

「うん うれしい! 待ってる!」

一通のメールのことはお互い触れずに約束した。

約束の当日、その日は二人で映画を観て、晩餐と過ごし、一夜をともにした。

ただ、翌日の朝、彼女より早く起きて、

一通のメールの真意を彼女の枕元に置手紙にした。

「なお!教えて!」

「東京駅の新幹線中央口で十一時に待ってるから」

ただ、彼女は現れなかった・・・



「法則ではどうだったんだろう?」

「え~と 40÷2足す10で30」

「彼女は一周り下+1で29・・・」

「今、出会っていたら・・・」