いきなり降りだした雨。
冬にはめずらしいほどの豪雨。本当に家に居てよかった、と空は真っ黒な雲を見て安堵の溜め息をついた。もう12月、いくら例年に比べて暖かいとはいえ冬は冬。まあ、外に出る理由なんて無かったのだが。
心
ただなんとはなしに窓の外を見ていると、見慣れた癖っ毛を萎らせた幼なじみが真下にある入り口に、これ以上に無いくらいのスピードで駆け込むのが見えた。
――――さっすがエースストライカー。
そう一人で感心した瞬間、ある筋書きが空の脳裏に浮かぶ。
「こうしちゃいられない」
もう一度雲を見上げて、空はバスタオルを持って階段へ向かった。
何故階段なのか。
それは絶対と言っていいほど太一は階段を使わないからだ。
――――トレーニングだ。
そう言い始めたのはもう二年も前のこと。始めた当時こそ登り切ったとたん膝をついていたが、今では軽く息をあげる程度になってきた。どんなにひどい熱があっても、彼は必ず階段を上ってくる。風邪のときぐらい控えるように何度言っただろうか。それでも太一は意地になってやめなかった。きっとそういう性分なのだと空は思った。
だから、 階段を降りれば絶対に鉢合わせる。そう思って、空は一心に階段を駈け降りた。しかし、太一は一向に姿を見せない。空は下りる階段を間違えたかと思ったが、当の本人はエントランスのベンチに気の抜けた顔で座っていた。
「太一」
「おー、空。おま…」
ばふっ、と何か言い掛けた太一にバスタオルを投げ付ける。
「空!何でここにいるんだよ、そんな薄着じゃ風邪ひくぞ」
「誰かさんがお困りじゃないかと思ってね。それに今風邪をひくっていうのなら私じゃなくて太一よ」
空はまた何か言い掛ける太一の手からバスタオルを奪って、強引に彼の癖っ毛を拭く。
「ばっ…やめろって」
必死の抵抗に、仕方なく手を離した空は、心底満足そうな顔をして言った。
「鍵」
「は?」
「鍵、無いんでしょう」
太一のしかめっ面がふにゃふにゃと笑顔にかわる。
「すべてお見通しってか」
その言葉に、空は何も答えず、ただ声を上げて笑っていた。
***あとがき***
続いたり続かなかったり(笑)
空さんは太一さんの行動パターンぐらい全てお見通し
なんですよ。
今、私の頭の中には後編の筋書きがしっかりできてお
ります。
詳しいところはまた続編で。