Another♡BIGBANG

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主にBIGBANGのメンバー、もしくは読み手を主人公とし、勝手に妄想小説をアップしてます☆
かな〜りの気まぐれ&スロー更新ですが、よろしければお付き合いくださいませ(*˙︶˙*)ノ゙

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青空のところどころに雲が浮かぶ。爽やかな風が吹き渡るたびに公園の木々が揺れ、さわさわと音を立てた。

まだ少し肌寒さを感じるものの、今日は天気も良く、朝早い時間にもかかわらず犬を連れて散歩をする人や小さい子どもを連れた母親などの姿が見られた。

その中でヨンシクは木製のベンチに腰を掛け、ぼんやりとしていた。

「こちらにいらっしゃいましたか」

背後から声をかけられて振り向くと、そこにはジヨンが立っていた。

「チンダルレの花が、綺麗じゃなあと思っての」

ジヨンは静かに隣に座った。ヨンシクが見つめるその先にはチンダルレの花が咲いている。その花の名前が"チンダルレ"ということを知らなかったが、ピンク色で、透けるような少し儚げな花びらをもったかわいらしい花だ。無邪気に遊び回る子どもたちの向こう側で、静かに、また健気に咲いていた。

「昨日はすまんかったの」

「え?」

「仕事がどうのとか口を出したこと、悪かったの。今は時代が変わったことも、人それぞれに事情があることも、分かっとるつもりなんじゃがつい

ヨンシクは頭を掻いた。昨日、『étoile』で見せていたような強気の態度はすっかり消え、お年寄り独特の穏やかな優しい雰囲気が漂う。

「僕には家族がいないんです。自分のことについて誰かに何かを言われるという経験もなくて。なので、少し嬉しかったというかとにかくお気になさらないでください」

ヨンシクは『そうか』と申し訳なさそうに呟き、それきり黙ってしまった。

二人の周りを、再び爽やかな風が吹き抜ける。

「わしの妻はの、よくできた人間じゃった」

ヨンシクはチンダルレを見つめたまま、静かに話し始めた。

「親の決めた結婚で、もしかしたら心に決めた人が他にもおったかもしれんのに、文句なんぞなーんも言わんでの」

ヨンシクの脳裏には当時の日々が思い返された。スンリの祖母であるチュンジャとヨンシクは、隣人同士だった。年端も近く両親たちが仲良かったこともあり、親中心にお見合いの話が進んだ。

それでもヨンシクは嬉しかった。昔からチュンジャのことが好きだった。学校から帰る時、チュンジャの家の前を通る。彼女とたまたま出くわすと家の主人でもないのに『おかえりなさいませ』と丁寧に頭を下げて挨拶してくれるのだ。ヨンシクは苦労人で、働いて家を助けながら寝る間も惜しんで勉学に励んでいた。そんな自分を知ってくれているような、労ってくれているような気がして、なんて清楚で心の清らかな女性だろうかと、すぐに恋に堕ちた。

チュンジャが断ることもなく、見合いの話は順調に進んで2人は結婚し、2人の子どもをもうけた。戦後の混乱や不景気の影響もあり、決して裕福な生活ではなかった。それでも彼女は一つも弱音を吐かずヨンシクを支え続けた。

「じゃが怖いところもあってな。わしがカッとなって子どもに手をあげたりなんかすると、その後ずっと居間で編み物をしよる。子どもが寝静まった後も、ずーっとずーっと。ひとつ、またひとつ編み目が組まれていくうち、自責の念が募るんじゃ。観念して謝ったら、一言『私じゃなく、子どもたちに』ってな」

ジヨンはふふっと笑った。

彼の周りには、たくさんの良い女性がいる。ヒョジュやヒョンスク、それにスンホの母親であるユナ(Oh!my baby)。それぞれタイプも違うが、皆強くて優しい女性たちだ。チュンジャもきっと、妻として母として、とても強い女性だったのだろう。

「あれはチンダルレの花が好きでな。贅沢なことを何もさせてやれんかったが、毎年この時期はチンダルレを見に出かけたもんじゃ。若い頃はまだ世の中が不安定での、なんもしてやれんかった。仕事を辞めて、これからは恩返しをしようって、決めとったのにのう

一際強い風が吹き、チンダルレの枝が折れそうなほどに揺れる。遊んでいた子どもたちも、かぶっている帽子が飛ばないように押さえていた。

ヨンシクは頑固な性格で、気恥ずかしさもあり、日頃から感謝を言葉や態度で分かりやすく示すことはなかった。『愛してる』の一言もかけたことはない。

そんな自分の側に居続けてくれたチュンジャのために、定年退職後は彼女をいろんなところへ連れて行ってあげようと計画していた。ところが行きたいところを尋ねると「チンダルレを見たい」と言うのである。チンダルレならいつも見に行っているのにと不思議に思うヨンシクに、チュンジャは「いつものところがいいんです」と微笑んだ。

その旅行の数日前、彼女は急逝した。あまりに突然のことだった。

子どもたちは『母さんはいつも幸せそうだったよ』と慰めてくれたが、ヨンシクには後悔の念が募った。

もっと彼女の大好きな花をたくさん見せてやればよかった。『ありがとう』『愛してる』こんな簡単な一言を、なぜ一度もかけてやれなかったのか。

もう何を思っても愛する人は帰ってこない。

「昨日お前さんの作ってくれたトッカルビを食べたらの、不思議とあれのことを思い出したんじゃ」

ヨンシクはチンダルレから視線を移し、空を見上げた。その目はどこかなつかしそうな、それでいて寂しげだった。

ジヨンの作るトッカルビはヒョンスクの直伝だ。ヒョンスクもまた、母親であるチュンジャからその作り方を教わったのであろう。

懐かしい味に触れて、無性にチュンジャが恋しくなった。気を紛らわせようと散歩に出たところにチンダルレの花を見つけ、それがまた寂しさに拍車をかけた。

「お前さんにこんな話をするのも悪いが、この間病気が見つかったんじゃ。医者は治ると言うとったが。あれが逝ったのも、チンダルレの咲く頃。どうも、偶然とは思えんでのう

何か不思議な縁を感じてならず、治療に踏み切るのを躊躇っていた。どのみち老い先の短い人生である。2人の娘も立派に育った。長らく会えていなかったスンリにも会って、孫たちも元気にやっていることが分かり、もう未練はなかった。このまま悪あがきせず天命に身を任せた方がいいように思えたのである。

ジヨンは、ヨンシクの心情を察した。彼もまた、もしもスンリがいなくなってしまうとしたら、自分のその先の人生については想像も及ばなかった。でも、逆のことが起きたらと考えてみた時、少し違った想いが湧いてきたのである。

頬に春風を感じながら、『僕は』と切り出した。

「僕がもし愛する人より先に逝ってしまうようなことがあったら、愛する人には生きて生きて、歳をとってその時が来ても、まだ死にたくないと思えるようなこれ以上ないってくらい幸せを受けて欲しいなって思います」

仮に彼が新しいパートナーを見つけるとしたら、少し寂しさは残るがそれはそれでまたいいと思った。きっと別の人と幸せな家庭を築いたとしても彼はジヨンのことを忘れないでいてくれる。そう確信できるだけの愛情を、スンリは注いでくれていた。

いつまでも悲しんで苦しみの人生を送るよりは、スンリにはいつも笑顔で居て欲しい。

チュンジャはきっと、誰よりもヨンシクのことを理解していたのだろう。言葉がなくても、愛されていることをちゃんと分かっていたのではないだろうか。

何か特別なものが欲しいわけではない、愛する人と過ごせる日常の中に幸せがある。

いつもと変わらないチンダルレを見たがった彼女の想いが、ジヨンには分かるような気がした。

ヨンシクは聞いているのかいないのか、いつまでも空を見つめていた。ジヨンもまた、同じ空を見つめた。

「じいちゃん!」

焦ったような声が聞こえて振り向くと、ビジネスルックのスンリが立っていた。

「釜山まで来て心配かけないでよ、もぅ

ネクタイを緩めながらこちらに歩み寄って来る。走って来たのだろう、顔も首元も汗だくだ。

ヨンシクを見つけた際、ジヨンは話しかける前に彼にメールを送っていた。心配しないでいいように、と思ってしたことだったが居ても立っても居られなくなったらしい。

「わしは散歩しとっただけじゃ」

「一言言ってよ〜」

「まぁまぁ。いいお天気ですし、そうだ!キンパ持って来たんです。よかったらいただきませんか」

放っておくと小さなケンカを始めそうな二人をなだめつつ、ジヨンはリュックから保冷バックとお茶を取り出した。

先ほどのしんみりとした雰囲気とは打って変わって、ヨンシクはキンパを美味しそうに平らげた。そして時折スンリと漫才のようなやりとりを繰り広げ、それを見てジヨンが笑う。

太陽もすっかり高くなり、先ほどまで吹いていた風も止んで暑いくらいにまで気温が上がった。心なしか、儚げだったチンダルレの花がにこやかに微笑んでいるように見えた。