日本人が好む言葉の一つに『以心伝心』がある。 「心をもって,心に伝える」 ということになるが、元々は仏教説話に出てくる成語。 言葉を介せず、師の心から弟子に直接、思いが伝えられることを意味する。 この7月に亡くなられた直木賞作家の深田祐介さんと 外人タレントの草分け的存在であるイーデス・ハンソンさんのと対談が 以前、「週刊文春」に連載されていた。 1970年代のことだった。 その中に、アメリカ社会には「以心伝心はあるのか?」 という質問を深田氏がしている箇所があった。 その質問に対して、ハンソンさんの答えとしては、 「アメリカ社会は、日本社会とは、かなり違う。 日本のような長い残業はアメリカにはなく、 上司に対して媚びへつらうような態度は微塵(みじん)もない。」 と表現している。 ところが、そのあと言葉を続けて、 「会社での残業はないが、優秀なビジネスマンは、 家に持ち帰ったりして、知らぬうちに仕事をやりこなしている。 上司に対しても、まったく気遣いしていないように見える。 むしろ、緊張を与えないように、笑いを入れたり、さりげなく気遣いを心がけている。 優秀な人同士は、それでわかりあえる。」と表現していた。 日本社会は、ワザとらしく、 気遣っていることを見せて以心伝心としているところがある。 『以心伝心』は、本来、こんな風に誰にも気づかれることなく、 「むむっ、おぬし、出来るな?」 と、お互い心の中でつぶやき合う世界と言えそうだ。