桜の花が美しいと思うのは、あの優しくて淡い色合いと、少しの間しか咲くことができないという侘しさ、はかなさから来るものだろう。
ひとたび、まとまった雨が降れば、花びらは散ってしまい、程無くして初夏を思わせる緑の芽吹きが街中のいたるところに現れる。
街の風景が、ピンク色から、緑色を携えた風景に変わる瞬間だ。
この"変わる"を感じることで、人々は季節の変化や時の移ろいを認識するのである。
このように"変わる"ということ自体には、何か大切な意図や理由が必ず含まれている。
如月ハニーなんかは「ハニーフラッシュ!」て律儀にシャウトしてから、ちょっぴりエッチで見つめちゃイヤんなキューティーハニーに変わるし、
妖怪人間ベムは、変身前のナリよりも明らかに弱そうな妖怪にバッドチェンジするわ、早乙女乱馬にいたっては、水を浴びればボンキュッボン!と性別自体が変わり、そのうえ乱馬の親父なんか人間やめてパンダになりはる始末。
だけども、それぐらい往年のキャラクターたちにも"変わる"という要素は大事であり、子供たちの心をぐっと掴む切り札的な位置づけだったのだろう。
しかし、"変わる"と言えども、変わり損ねてしまうと、こんな喫茶店になってしまうので要注意である。
「American Dream」ではなく、あくまで「Americaん Dream」
「ん」だけが変われなかったという、なんともそこはかとない拍子抜け加減。
しかしこの「ん」の変わり損ねにも、店のマスターのさぞかし高尚な意図があるのだろう。いや知らんけど。
その一方で、"変わりすぎ"てしまうと、このようなスーパーノヴァなお店に変貌してしまう。
店の名前はなんと「ん」一文字のみ、以上。 うむ…いや、んむ。これは異常である。
まず、何の店かが全くもって意味がわからない。外観も昭和の時代で凍結したかのような香ばしいセピア加減。
とはいえ非常に気になったので、建物周りをパトロールしてみたら、なんとこの建物、「整体院」であった。
ということは、この整体院は「ん整体院」というネーミングになるわけだ。あぁ、なるほどね、よけいに意味が分からない。
まあともあれ、「この際、足の関節も調子悪いからちょっと診てもらぉー」と思って扉を叩いてみたのだが、残念ながらすでに店を畳まれていたようで、この命名の理由は永久に謎のままとなった。
もしかしたら、この整体院に行きたい人がタクシーに乗った時に、
「お客さんどちらまで?」と訊かれて、
「ん」 と答えて、
「いえ、ですからどちらまで!?」
「ん!!」
「いやだからぁ!!、どち(以下略)」
という哀しい会話不成立のために、結果的に客足が遠のき閉店と相成ったのかも!? と思った。
いや知ら「ん」けど。