血液検査で『ALT>AST』の肝酵素上昇を認めて、BやC型慢性肝炎も否定的、体型もみるからに・・・・で、脂肪肝による肝障害を疑う時はしばしばあります。




(フォアグラのソテー Wikipediaより)


本邦でのメタボリック症候群の人口増加に伴い、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の患者さんは国内に2000万人以上いるとも言われています。


そもそもNAFLDって何でしょうか?


NAFLDは『組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害などの他の肝疾患を除外した病態』のことを言います。


エタノール換算で男性30g/日、女性20g/日以上の飲酒量でアルコール性肝障害を発症しうるので、NAFLDの飲酒量はそれ未満となります(表1)。


日本酒1=ワイン1/4ボトル=酎ハイ0.6=ビール中瓶1=ウイスキーダブル1杯=エタノール約20g

(表1 エタノール約20gと同等価のアルコール飲料)



NAFLDは病態がほとんど進行しないNAFL(非アルコール性脂肪肝)と進行性で肝硬変や肝癌の発症母地にもなるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)に分類されます。


肝硬変の原因は様々ですが(表2)、B型もしくはC型慢性肝炎、アルコール性で全体の約90%を占めています。NASHの認識が広まるとともに以前は原因不明の肝硬変(特発性肝硬変)に分類されていた肝硬変は減少しています。


B型もしくはC型慢性肝炎、アルコール、NASH、原発性胆汁性肝硬変、慢性胆管閉塞、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎、Wilson病、Budd-Chiari症候群、浸潤性疾患(アミロイドーシス、サルコイドーシス)、薬剤(アミオダロン、メトトレキサートなど)、感染症(日本住血吸虫症)、右心不全など

(表2:肝硬変の原因)



NASHを放置しておくのは怖いですね。NASHの約15%が肝硬変に進展するとも言われています。そもそも、どうしたらNASHになるのでしょうか?


NASHの多くは肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを基盤に発症することから、メタボリックシンドロームの肝病変と捉えられています。ただし、ただ肥満というだけではNASHにならないため、Two hit theory』が広く受け入れられています。つまり、肥満や脂質異常症、糖尿病などが『1st hit』となって肝脂肪化を起こし、さらに酸化ストレスを主体とする『2nd hit』が加わってNASHが発症するというものです。


NASHであれば、全例肥満で、腹部エコーで脂肪肝を認めるのでしょうか?


NASHは肥満である方が多いですが、肥満でない場合や低栄養性脂肪肝もあります。また、腹部超音波検査で必ずしも脂肪肝を認めなくとも、Burn-out NASH(肝の脂肪化は線維化が進行すると減少する)を否定することはできません。NASHかどうかの確定診断のためには肝生検が必要になってきます


では、NASHを早期に診断するためにもNAFLDの患者をみた時には専門医にすぐ紹介するのがよいのだろうか?


NAFLD全例を肝臓専門医へ紹介することは非現実的です。現在までにいくつかNASHとNAFLの鑑別のためのスコアリングシステムが報告されていますが、確立されたものはありません。


したがって以下のような肝の線維化を疑う所見(肝硬変への進展)を認めた時に専門医に紹介することが推奨されています。


非肥満例、血小板<14万、AST/ALT比≧0.8、フェリチン高値、空腹時インスリン値高値、4型コラーゲン7S高値、画像で肝右葉が萎縮傾向など



仮にNASHだとしてどんな治療法があるのでしょうか?


NASHに対する根本治療はなく、メタボリックシンドロームの肝での表現型であると考えられているため、食事・運動療法によるダイエットで生活習慣の是正を行い、肝線維化の進行抑制や糖尿病や心血管系イベントの発症に注意すること、定期的に腹部超音波検査をして肝癌のサーベイランスを行うことが重要になってきます。


糖尿病合併NASHにおいては、インスリン抵抗改善薬であるチアリゾン誘導体が有効であるという報告や酸化ストレスがNASHの病態に関与しており、特に非糖尿病合併NASHにおいては、プラセボとの比較試験(RCT)においてビタミンEが有意にALTの改善や肝組織評価スコアを改善させた(ただし、肝線維化スコアは変化なし)ため(N Engl J Med. 2010 362(18):1675-85)、投与が推奨されていますが、肝生検未施行例や肝硬変例では推奨されておらず、高容量の長期にわたるビタミンE投与は前立腺癌の増加などの副作用も懸念されています。




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