本日は『修正バルサルバ手技』についてです。


 救急外来を動悸やめまい、胸痛で受診される患者さんの心電図が『narrow QRS tachycadia、リズム整』を示してPSVTを疑う時ってありますよね。不安定でなければ、洞性頻脈や心房細動、心房粗動との鑑別のために、ATP(アデノシン)を投与することもあります。


 PSVTのほとんどは、房室結節の2重経路を伴う房室結節性リエントリーと潜在WPW症候群による房室リエントリー頻拍によりますが、ATPはこれらにおいて超短時間の房室ブロックを引き起こし、一過性に心静止を起こす薬剤です。比較的安全な薬剤ではありますが、患者さんにめまいや胸痛などの不快感を伴い、低血圧や気管支攣縮などの副作用もあります。稀に狭心症や冠動脈狭窄が疑われている患者さんには冠動脈盗血現象から心室性不整脈を誘発することがあるため注意が必要です。

 

 PSVTを止める非侵襲的な手技として頸動脈洞マッサージがありますが、動脈硬化のつよい高齢者ではartery to artery embolimを起こしてしまった報告もあります。バルサルバ手技(息こらえ)はどうでしょうか?安全にできる手技ではありますが、洞調律復帰は5-20%と低いです。

 

 そこで、従来のバルサルバ手技(息こらえ)に追加して、静脈還流量を増やし、迷走神経刺激を増強する目的で考えられた修正バルサルバ手技というものがあります。これは患者さんを45°半座位にしてバルサルバ手技(息こらえ15秒)を行い、直後に仰臥位になって、足をあげて静脈還流量を増やします。


 そもそもバルサルバ手技でどうして徐脈になるのでしょうか?


 息こらえによって胸腔内圧が上昇すると静脈還流量が減少します。静脈還流量の減少は、左室容積の減少させ、1回拍出量が低下します。ここで息こらえを止めると、胸腔内圧上昇により抑えられていた静脈血が一気に心臓に戻り、1回拍出量が増加します。その結果として、頚動脈洞圧が上昇し、逆に反射性徐脈を引き起こすという訳です。
 頸動脈洞圧を上げるために仰臥位になって、足を上げるという行為はなるほど理にかなっていますね。


 救急外来を受診したSVT患者(心房細動と心房粗動を除く)を対象に修正バルサルバ手技と従来のバルサルバ手技を行い、1分後の洞調律復帰率を比較したRCT試験によると(Lancet 2015; 386: 1747-53)、従来のバルサルバ手技での洞調律復帰は17%であったのに対して、修正バルサルバ手技は43%と報告されています(調整オッズ比3.7(95%CI 2.3-5.8;p<0.0001)。


 PSVT患者に『バルサルバ手技なんてほとんど効果ないからしない』という人も多かったと思いますが、この数字をみると試してみようかなと思います。飛行機内などの院外発生事例に対しても試してみる価値は十分にあります。


 是非、Lancetで紹介されている動画を御覧下さい。バルサルバ手技として10mlの注射器を患者にくわえさせてピストンが動き出すまで圧力を加えるのはわかりやすいです。


http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2815%2961485-4/abstract

(修正バルサルバ手技の動画)