本日は『副鼻腔気管支症候群:Sinobronchial Syndrome(SBS)』についてです。


長引く咳を主訴に外来受診される方はとても多いですね。どのようにアプローチしていくかは、日本呼吸器学会から『咳嗽に関するガイドライン第2版(2012)』が出版されておりますのでご覧ください。



救急医の挑戦 in 宮崎



救急医の挑戦 in 宮崎
(遷延性咳嗽のアプローチ:日経メディカルオンラインより引用)



ガイドラインの中では、喀痰を伴う咳嗽(productive cough)が3~8週間以上続いた場合(遷延性/慢性咳嗽)の鑑別疾患として『副鼻腔気管支症候群(SBS)』を考慮するとあります。


COPDや慢性気管支炎であれば喫煙歴が重要ですね。SBSは喫煙とは無関係です。


SBSは本邦では遷延性/慢性湿性咳嗽において頻度の高い疾患なのですが、このSBSって一体どんな病態なのでしょうか?


・・・


SBS は慢性咳嗽のなかでも湿性咳嗽を来す代表的疾患であり『慢性、反復性の好中球の気道炎症を上気道と下気道に合併した病態』として定義されています。


この定義に示されている上気道病変は名前の通り、慢性副鼻腔炎であり、下気道病変は気管支拡張症慢性気管支炎喫煙による慢性気管支炎とは別の病態)、びまん性汎細気管支炎(Diffuse PanBronchiolitis: DPB)といった3 疾患です。


(慢性副鼻腔炎)+(気管支拡張症/慢性気管支炎/DPB)=SBS です。


鼻(上気道)も気管支(下気道)もひと続きの気道ですね。明らかな原因は不明ですが、この気道における重要な気道防御機構の一つである粘液、線毛クリアランスの障害や免疫能低下を来す病態があるのではと考えられています。DPBの他にも原発性線毛機能不全症やKartageners症候群などがこの疾患群に含まれています。


DPBは日本など東アジアに多い疾患で欧米ではです。HLAーB54などの遺伝的素因が指摘されていますが、このDPBも高率(>80%)に副鼻腔炎を伴います。


DPB』について

http://erj.ersjournals.com/content/28/4/862.long


診断には下記の内、特に最初の3つを満たすことが大切です。


①持続性の湿性咳嗽や労作性呼吸困難

慢性副鼻腔炎の症状や既往

両側性、びまん性の小葉中心性の粒状影

④1秒率が70%以下

⑤寒冷凝集素反応高値(64倍以上)

⑥coarse crackles、wheezeを聴取



SBSの疾患概念としては、DPBの概念が広がってDPBとしては典型的でない画像所見(所見なし・気管支拡張像のみ)を呈する場合にもSBSとするような印象を個人的にはもっています。
救急医の挑戦 in 宮崎


救急医の挑戦 in 宮崎
(DPBのCT画像)


DPBでは胸部CTで細気管支病変を示唆する小葉中心性の粒状影やその中枢側の気管支拡張像を認めます。NTM(非定型抗酸菌症)、DPBともに細気管支炎を反映した小葉中心性陰影と気管支拡張の所見が最もコモンなCT所見ですが、DPBの方がより広範囲の所見を呈します


※気管支拡張の鑑別疾患→先天性(Kartagener症候群)、後天性(DPB、ABPA、繰り返す気道感染、NTM、fibrosisによる牽引性気管支拡張など)


細気管支炎の鑑別疾患→ウイルスなどの呼吸細気管支炎、異型肺炎、TB、NTMといった感染性のものから、DPB、過敏性肺臓炎、ABPA(浸潤影が多い)、じん肺症、RAに伴う細気管支炎などの非感染性のものまで。


救急医の挑戦 in 宮崎
(ABPAのCT画像)


ABPAはDPBに比較して、より中枢側の気管支拡張を呈します(もちろん、他にも気管支喘息の既往や末梢好酸球増加、総IgE増加などで鑑別できます)。


・・・


慢性咳嗽、特に湿性咳嗽の原因疾患として本邦では重要な疾患とされているSBS ですが、欧米ではDPB に該当する症例が非常にまれであることから遷延性/慢性咳嗽の中におけるSBSはほとんど認知されていません。



治療は、その抗菌作用ではなく、好中球集積の抑制(抗炎症作用)や気道分泌抑制作用、抗バイオフィルム作用などがあり、DPBの治療法として確立しているマクロライドを少量持続投与することがガイドラインでは勧められています(DPBでないtypeのSBSにおけるマクロライドの有用性を実証したRCTは現在までに存在していません)。


現在はSBSだけでなく、単に慢性気管支炎や気管支拡張症、慢性副鼻腔炎などにおいてもマクロライドが長期間処方されるケースがあります。有用性自体に『』が残り、副作用(下痢やQT延長症候群など)の問題や何よりマクロライド耐性菌増加の問題があると思うのですが、中には効果の期待できる症例もあるようで、漫然と単に『咳が長引いているから』という理由で長期処方しないことが大切だと考えます。


そうした中にあって最近は抗菌作用がなく(耐性菌の出現危惧ない)、免疫調整作用をもったマクロライドが開発されています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22925316