本日は『石綿(アスベスト)』に関する一般的な知識から、実際の臨床でみる際の注意すべき問診事項から画像所見などをお話してみようと思います。
『呼吸困難』といった症状での来院から、原因不明の胸水貯留の精査、検診まで一般内科外来を受診する可能性は多いにあるため、基本的な事項は押さえておく必要があります。
今回参考(というよりもそのまま文章にしただけなのですが)にさせて頂いたのはこちらの動画です。いくつものchapterからなり、非常にためになりますので是非ご覧ください(動画共有ができなかったので、直接youtubeで検索してみてください)
http://www.youtube.com/watch?v=XQwV8l3R3sw
まずは総論から。
石綿(アスベスト)は特定の鉱物の名前ではなく、『線維状にさける鉱物の総称』。日本で使用されてきた代表的な石綿はクリソタイル、アモサイト、クロシドライトの3種類。
こうした石綿は熱や摩擦、腐食に強く、防音性や絶縁性にも優れており、価格も安いため高度経済成長期の日本で建築材料(保温、断熱目的で石綿を吹き付ける)を中心に自動車部品(ブレーキなど耐摩耗性に優れている)など様々な用途に応じて大量に使用されてきました。
繊維が非常に細いため、飛散して吸入する恐れがあります。石綿の発癌性が明らかになり、2006年には石綿の全面禁止になりましたが、石綿関連疾患の潜伏期間には20-40年と言われており、今後20-30年は増加することが予想されています。
続いて『病歴聴取』のポイントについてです。
『石綿暴露歴の聴取の方法』
患者自身が気づいていないことや20-40年以上も前のことを覚えていないこともあるため必ずしも容易でありません。また、下記に記したように多岐にわたる石綿製品の製造や運搬、解体などのどこに関わっていたのかを詳細に問診することが重要となります。
・職業性暴露
石綿鉱山やその採掘、精製に関連する施設での作業の他、石綿製品の船積み、荷下ろし、梱包、運搬に関わる作業、建築現場での石綿の吹きつけ作業や解体作業など、船舶には石綿製品が使用されていることもあり、これらの解体作業でも発症する恐れがあります。その他、直接その製品を取り扱わなくとも間接暴露することもあります。
・環境(近隣)暴露
北海道富良野や熊本松橋には大きな石綿鉱山がありました。九州では佐賀県鳥栖に近隣暴露者が存在していると言われています。
・・・
では石綿による呼吸器疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?
これは下記のように『石綿関連肺疾患』としてまとめることができます。
①肺病変(石綿肺、石綿肺癌)
②胸膜病変(胸膜中皮腫(悪性)、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚)
③石綿暴露の指標(石綿小体、胸膜プラーク)
アスベスト関連肺疾患の画像について
http://radiographics.rsna.org/content/22/suppl_1/S167.figures-only
では、それぞれ詳しくみていきましょう。
・・・
『胸膜プラーク』
限局性の胸膜肥厚で大部分は壁側胸膜に発症し、低濃度の石綿暴露でも発症します。暴露から20年程度で発症し石灰化の頻度は15%程度と言われているが時間経過とともに増加します。
胸部X線の感度は30%程度。それ自体は問題なく、肺癌や中皮腫になりやすいかどうかについては結論がでていません。しかしながら石綿暴露の指標となり、労災認定や救済法認定につながることもあるので見落としないようにすることが大切です。心外膜や横隔膜が石灰化することもあります。
結核性胸膜炎の治療後でも胸膜石灰化(→肺尖部が多い)を認めることがあり区別する必要があります。
『石綿小体』
胸膜プラークと同様に過去に石綿暴露を示す所見の一つ。肺に吸入された石綿繊維に対する生体反応(石綿繊維が鉄を含む蛋白で被包されたもの)として肺内に生成されます。肺の病理組織で検出される。肺組織が得られない場合は気管支肺胞洗浄液を用いることも可能。石綿暴露が疑われる場合には積極的に検査していくことが大切です。
『石綿肺』
高濃度の石綿暴露により発症するじん肺。特発性間質性肺炎との鑑別が重要であり、問診からの暴露歴の聴取が非常に重要となる。下肺野の外側辺縁部の線状網状影から始まり、内側、上部へと進行し蜂巣肺になります。
『石綿肺癌』
石綿由来の原発性肺癌。石綿肺を合併しない症例もあり、肺の繊維化よりも石綿そのものが発癌に重要であり、発癌は暴露量に比例すると考えられています。
『胸膜中皮腫』
壁側胸膜に生じることが大半であるが、稀に臓側胸膜に発生することもある。すぐに胸膜に沿って進展することでびまん型と診断されることが多い(→片側胸水で発見される)が、稀に限局性腫瘤を作ることがある。
病理組織検査や細胞診検査を含めて総合的に判断することが大切。CTで胸水貯留のみが認められる例が多いが、胸膜が肥厚されればより診断荷有効。胸水中のヒアルロン酸値10万ng/ml以上で中皮腫が疑われるが、低値でも否定はできない。細胞診の感度も30%程度。胸腔鏡下生検が診断に重要。
『胸水貯留の診断アプローチ』について
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11414226819.html
『中皮腫診断の難しさ』について
http://oisha.livedoor.biz/archives/51141883.html
『良性石綿胸水』
石綿暴露により生じる非悪性の胸水で通常は片側性であるが、両側にきたす症例もある。初回暴露からの潜伏期間は平均40年で、他の胸水貯留を来す疾患(特に早期の胸膜中皮腫との鑑別は非常に難しい)を除外することが大切。
『びまん性胸膜肥厚』
胸膜プラークとは異なり、臓側胸膜の繊維性肥厚であり肺機能障害をきたすことが多い。
鑑別疾患には結核性胸膜炎や膿胸、胸膜プラーク、胸膜中皮腫などが挙げられる。
『呼吸困難』といった症状での来院から、原因不明の胸水貯留の精査、検診まで一般内科外来を受診する可能性は多いにあるため、基本的な事項は押さえておく必要があります。
今回参考(というよりもそのまま文章にしただけなのですが)にさせて頂いたのはこちらの動画です。いくつものchapterからなり、非常にためになりますので是非ご覧ください(動画共有ができなかったので、直接youtubeで検索してみてください)
http://www.youtube.com/watch?v=XQwV8l3R3sw
まずは総論から。
石綿(アスベスト)は特定の鉱物の名前ではなく、『線維状にさける鉱物の総称』。日本で使用されてきた代表的な石綿はクリソタイル、アモサイト、クロシドライトの3種類。
こうした石綿は熱や摩擦、腐食に強く、防音性や絶縁性にも優れており、価格も安いため高度経済成長期の日本で建築材料(保温、断熱目的で石綿を吹き付ける)を中心に自動車部品(ブレーキなど耐摩耗性に優れている)など様々な用途に応じて大量に使用されてきました。
繊維が非常に細いため、飛散して吸入する恐れがあります。石綿の発癌性が明らかになり、2006年には石綿の全面禁止になりましたが、石綿関連疾患の潜伏期間には20-40年と言われており、今後20-30年は増加することが予想されています。
続いて『病歴聴取』のポイントについてです。
『石綿暴露歴の聴取の方法』
患者自身が気づいていないことや20-40年以上も前のことを覚えていないこともあるため必ずしも容易でありません。また、下記に記したように多岐にわたる石綿製品の製造や運搬、解体などのどこに関わっていたのかを詳細に問診することが重要となります。
・職業性暴露
石綿鉱山やその採掘、精製に関連する施設での作業の他、石綿製品の船積み、荷下ろし、梱包、運搬に関わる作業、建築現場での石綿の吹きつけ作業や解体作業など、船舶には石綿製品が使用されていることもあり、これらの解体作業でも発症する恐れがあります。その他、直接その製品を取り扱わなくとも間接暴露することもあります。
・環境(近隣)暴露
北海道富良野や熊本松橋には大きな石綿鉱山がありました。九州では佐賀県鳥栖に近隣暴露者が存在していると言われています。
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では石綿による呼吸器疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?
これは下記のように『石綿関連肺疾患』としてまとめることができます。
①肺病変(石綿肺、石綿肺癌)
②胸膜病変(胸膜中皮腫(悪性)、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚)
③石綿暴露の指標(石綿小体、胸膜プラーク)
アスベスト関連肺疾患の画像について
http://radiographics.rsna.org/content/22/suppl_1/S167.figures-only
では、それぞれ詳しくみていきましょう。
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『胸膜プラーク』
限局性の胸膜肥厚で大部分は壁側胸膜に発症し、低濃度の石綿暴露でも発症します。暴露から20年程度で発症し石灰化の頻度は15%程度と言われているが時間経過とともに増加します。
胸部X線の感度は30%程度。それ自体は問題なく、肺癌や中皮腫になりやすいかどうかについては結論がでていません。しかしながら石綿暴露の指標となり、労災認定や救済法認定につながることもあるので見落としないようにすることが大切です。心外膜や横隔膜が石灰化することもあります。
結核性胸膜炎の治療後でも胸膜石灰化(→肺尖部が多い)を認めることがあり区別する必要があります。
『石綿小体』
胸膜プラークと同様に過去に石綿暴露を示す所見の一つ。肺に吸入された石綿繊維に対する生体反応(石綿繊維が鉄を含む蛋白で被包されたもの)として肺内に生成されます。肺の病理組織で検出される。肺組織が得られない場合は気管支肺胞洗浄液を用いることも可能。石綿暴露が疑われる場合には積極的に検査していくことが大切です。
『石綿肺』
高濃度の石綿暴露により発症するじん肺。特発性間質性肺炎との鑑別が重要であり、問診からの暴露歴の聴取が非常に重要となる。下肺野の外側辺縁部の線状網状影から始まり、内側、上部へと進行し蜂巣肺になります。
『石綿肺癌』
石綿由来の原発性肺癌。石綿肺を合併しない症例もあり、肺の繊維化よりも石綿そのものが発癌に重要であり、発癌は暴露量に比例すると考えられています。
『胸膜中皮腫』
壁側胸膜に生じることが大半であるが、稀に臓側胸膜に発生することもある。すぐに胸膜に沿って進展することでびまん型と診断されることが多い(→片側胸水で発見される)が、稀に限局性腫瘤を作ることがある。
病理組織検査や細胞診検査を含めて総合的に判断することが大切。CTで胸水貯留のみが認められる例が多いが、胸膜が肥厚されればより診断荷有効。胸水中のヒアルロン酸値10万ng/ml以上で中皮腫が疑われるが、低値でも否定はできない。細胞診の感度も30%程度。胸腔鏡下生検が診断に重要。
『胸水貯留の診断アプローチ』について
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11414226819.html
『中皮腫診断の難しさ』について
http://oisha.livedoor.biz/archives/51141883.html
『良性石綿胸水』
石綿暴露により生じる非悪性の胸水で通常は片側性であるが、両側にきたす症例もある。初回暴露からの潜伏期間は平均40年で、他の胸水貯留を来す疾患(特に早期の胸膜中皮腫との鑑別は非常に難しい)を除外することが大切。
『びまん性胸膜肥厚』
胸膜プラークとは異なり、臓側胸膜の繊維性肥厚であり肺機能障害をきたすことが多い。
鑑別疾患には結核性胸膜炎や膿胸、胸膜プラーク、胸膜中皮腫などが挙げられる。
本日は以上です。