本日は『急性胆嚢炎』についてのお話です。



救急医の挑戦 in 宮崎


そもそも『急性胆嚢炎』の診断って『腹部エコー』を当ててぱっと診断できる典型的なものから、初期には確定診断まで至らずに経過をみないと分からない非典型例、無石性胆嚢炎、緊急の処置を要する壊死性胆嚢炎などの重症型まであって、なかなか奥が深いもんだと感じています。


急性胆嚢炎とは胆嚢に炎症をきたしたものを指しますが、これは必ずしも細菌感染とイコールではなく、胆嚢管の閉塞により胆汁が粘膜から吸収された状態(胆嚢水腫:慢性胆嚢炎が多い)や、稀なものとして胆嚢動脈の閉塞による胆嚢梗塞や胆嚢捻転などもあります。


胆嚢梗塞のような稀なもの以外は、一般的に胆嚢炎が成立するためには胆嚢管や胆嚢頚部が閉塞することが必須です。


90~95%は結石ですが、癌やリンパ節、繊維化、寄生虫、胆嚢管の変形や胆泥などでも閉塞します。


無石性胆嚢炎』と画像診断されるもののには、こうしたものの他に、実は手術をしてみると小結石がでてきたりするものの含まれています。


無石性胆嚢炎』について

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19747982

http://minds.jcqhc.or.jp/n/medical_user_main.php


DMや敗血症、外傷、手術後、熱傷などの基礎疾患や患者背景があって重症の胆嚢炎に進展することが多いようです。上記に挙げた原因のおそらく、長期絶食による胆泥や胆嚢壁の虚血などで起こるものではないかと推測しています。


外来レベルのいわゆる『結石がみえない、or 胆泥』によると思われる無石性胆嚢炎の症例を経験していたので個人的には報告されているように重症の胆嚢炎が多いという印象はありません。


重症患者や消耗している患者、免疫能が低下している患者に発症しやすいので重篤になりやすいというだけかもと考えていますが、どうでしょう。



次からは急性胆嚢炎の診断についてです。


まずは『鑑別疾患』についてです。何が挙がりますか?


感染症:肝炎、肝膿瘍、腎盂腎炎、右下葉肺炎胸膜炎、虫垂炎、憩室炎、肝周囲炎、横隔膜下膿瘍、帯状疱疹など


炎症:膵炎、十二指腸潰瘍(+穿孔、穿通)

腫瘍、外傷、虚血性心疾患などなど・・・


挙げだすときりがありません。特に十二指腸潰瘍は忘れないように。



急性胆嚢炎の『診断に有用な症状や所見』についてはどうでしょうか?

http://www.med.unc.edu/medselect/files/cholecystitis.pdf


単一の症状や所見で急性胆嚢炎と診断/除外するだけの高い/低いLRをもったものはないようです。いくつかの所見を組合わせて疑った場合は画像検査をして診断/除外していくことになります。


Murphy signが中でも診断に比較的有用(LR+2.8)ですが、エコーで胆嚢を描出させて同部位を叩くこと(sonographic Murphy sign)も有用であると感じています。


急性胆嚢炎単独では通常はトランスアミナーゼの上昇および黄疸は認めないため、AST/ALT 、ALP、 T-Bil の上昇を認める場合には胆嚢炎ではない可能性をつねに考慮しなくてはなりません(胆管炎/Mirizzi症候群/CBD stone の併存/重症型胆嚢炎など)


こうした見方をすることが大切になります。


胆石症で腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けた方の実に8.8%の患者で総胆管結石を認めたとの報告もあります。いくつかの肝胆道系酵素の中ではT-Bilが最も診断特異度が高く、逆に感度が高いのはγ-GTPでした。→陰性であれば不必要な術前のERCPを避けることができるかも

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18000708



画像検査の診断特性』についてはどうでしょうか?http://radiology.rsna.org/content/264/3/708.short?rss=1


reference standardには手術やその後のfollow-upで確認したものとし、胆道シンチ、超音波、MRIについての感度と特異度を調べています。


胆道シンチが感度、特異度ともに90%をこえて最も診断特性の高い検査となっていますが、日本では一般的ではありません。


エコーとMRIは感度、特異度ともに80%程度のようです。


感度はこんなものだろうという印象はありますが、特異度が低いのは診断基準が各studyで統一されていませんが、壁肥厚3mm以上を陽性としたり、(嵌頓?)胆石のみでも陽性としているためでしょうか。


コンセンサスが得られたものか分かりませんが、本邦では胆嚢壁肥厚(4mm以上)、胆嚢腫大(長軸径>8cm、短軸径>4cm)、嵌頓した胆嚢結石、胆嚢周囲液体貯留、胆嚢壁sonolucentlayer、デブリエコーなどを参考にしています。

http://taka-yuki.com/index.php?%E8%83%86%E5%9A%A2%E7%82%8E


エコーの診断基準を厳格にすると特異度は高くなりますね。


特にエコーは近年画質や解像度も向上しています。ただし、検査する側の腕も重要になってきます。


CTに比較してより診断精度は高いと言われており、X線陰性結石の描出にも優れています。



では、CT(造影)はいらないかというと、、どうでしょうか? 



エコーの方が診断特性に優れているかもしれませんが、エコーに加えてCTをした時の方が診断精度が高くなることや、ガス、造影不良といった胆嚢炎の重症度評価(胆嚢周囲膿瘍、気腫性胆嚢炎、穿孔性胆嚢炎、壊死性胆嚢炎:後述)、他の鑑別疾患を除外するためにも、現在の日本ではCTを撮影する機会は多いのではないのかと思います(必須ではありません)。


胆嚢炎の初期は典型的な画像をとらずに、悩む症例もあります。安易に除外できないことを覚えておいてください。


また、高齢者や認知症などで痛みの訴えが典型的でない場合に画像所見で胆嚢が腫大していたりした時には『胆嚢炎』と誤診しまうこともあります。診断には慎重になってください。経過をみて『これは胆嚢炎にしてはおかしい』というのを感じとれるようになりましょう。(→結局PMRであった症例を経験しています。そういえば、右季肋部以外にもあちこち痛みの訴えが。。。というのは最初に地雷の可能性を想定していれば避けれますね。)



最後に少し話にでてきた壊死性胆嚢炎のCT画像についてみていきます。


急性壊死性胆嚢炎のCT画像

http://www.ajronline.org/content/178/2/275.full.pdf+html


急性壊死性胆嚢炎は緊急度の高い、重症の胆嚢炎です。手術してみて壊死していたかどうかが正確に判明しますが、CTではどんな所見を呈するのでしょうか?


非壊死性胆嚢炎と比較してみると、壊死性胆嚢炎の所見としては壁在あるいは胆嚢内腔のガス像、壁の不整や造影不良、胆嚢周囲膿瘍などが特異度の高い所見として挙げられます。


実際の画像をみていきましょう。(こんな胆嚢炎は緊急を要すると覚えておいてください)


救急医の挑戦 in 宮崎

左図:胆嚢内腔にガス像を認めています。


右図:胆嚢周囲への炎症波及(白)と底部の造影不良域(透明)



救急医の挑戦 in 宮崎


左図:壁不整(黒)

右図:胆嚢周囲膿瘍と思われる(a)



救急医の挑戦 in 宮崎



左図:胆嚢周囲のfluid(白)

右図:非壊死性胆嚢炎 胆嚢周囲のfluid(黒)

以前に紹介したことのある『気腫性胆嚢炎』はこちら

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10989894209.html


急性胆嚢炎の診療指針について

http://taka-yuki.com/index.php?%E8%83%86%E5%9A%A2%E7%82%8E


治療に関して原則は『胆嚢摘出術』を前提とした初期治療(抗生剤や胆嚢ドレナージ)を選択することになります。


重症例(胆汁性腹膜炎、気腫性胆嚢炎、壊死性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍など)では準緊急的に胆嚢摘出術を考慮します。


軽症例では初期治療に反応し一旦軽快しても半年~数年の間に10~50%が再発すると言われており、入院中または軽快後に胆嚢摘出術を行うことが望ましいとされています。


以上です。




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