本日は『COPD急性増悪に対するステロイドと抗生剤の考え方』についてです。


COPD急性増悪に対するステロイドの効果ってどうなのでしょう?投与量は?投与期間は?


また、慣習的に抗生剤を投与していることが多いと思いますが、肺炎になっていない症例に対してもに必要なのでしょうか?


本日はこの2点についてのお話です。


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まずは『COPD急性増悪とステロイド』についてです。

http://www.the-hospitalist.org/details/article/1072143/What_Corticosteroid_is_Most_Appropriate_for_treating_Acute_Exacerbations_of_CoPD.html


日本呼吸器学会のCOPDのガイドライン

http://www.gold-jac.jp/support_contents/img/COPDguideline3_point_091007.ppt



基本事項を確認しておきましょう。


COPDの診断基準はタバコ煙を主とする有害物質の長期にわたる吸入曝露を危険因子とし、慢性に咳、喀痰、体動時呼吸困難などがみられる患者に対してCOPDを疑い以下の①②を満たしたものをいいます。


① 気管支拡張薬投与後のスパイロメトリーで FEV1/FVC<70%を満たすこと

②他の気流閉塞を来しうる疾患を除外すること


胸部CTで肺気腫がないものでも非気腫型(末梢気道優位型)というものもあります。


次にCOPDの急性増悪の定義についてですが、急性の経過で普段の状態(ある程度は日々の症状に変動があるのが普通ですが、それよりも逸脱した状態)よりも息切れや咳が増えたり、喀痰の量や質が膿性になってきた時』を急性増悪といいます。


一秒率や一秒量の変化では定義されません


COPDの既往がある方が急性呼吸不全で救急搬送されるケースがよくあります。急性増悪なのか上記の問診事項も大事ですが、聴診所見では通常は呼気と吸気の時間比は1:1~2ですが、呼気の延長やwheezeといった徴候がないかどうかきちんと確認することも大切です。


Wheezeが聴取できない場合は呼吸している様子をじっと側でみていないと分からないこともあります


COPDの既往があるというだけで肺炎の治療(抗生剤)に加えてステロイドが開始されている事もありますが、こうした急性増悪の所見(特にwheezeが大切)を確認して使用できるようになるといいですね。


呼吸困難の原因が肺炎によるものが大きいのかCOPDによる影響があるのかをきちんと検討する必要があります。


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COPDのステロイド治療』の是非については現在でも多くの議論がされており、この事に関して細かい病態生理を説明できませんが、気管支喘息は慢性の気道炎症がベースにあるので抗炎症作用をもつステロイドが治療のメインになるのに対してCOPDはその病態において気道の炎症+恒常的な閉塞性換気障害がありステロイドの効果は喘息のように期待できません(ステロイドで制御できないという言い方がbetterなのかも)。急性増悪例や重症例においてのみ使用を考慮します


国際的なガイドラインでも重症例(FEV1<50%)で増悪を繰り返す症例は吸入ステロイドと気管支拡張薬(LABA)の併用を推奨していますが、一方で吸入ステロイドの併用は肺炎のリスクを上昇させ死亡率を低下させないと言われています(死亡率を低下させるのは禁煙酸素療法だけです)。


急性増悪例でのステロイドを使用は肺機能(一秒量)を改善させ、治療の失敗や入院期間を短縮させることが示されていますが、死亡率には変化なく、高血糖などの副作用事例も増えています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19160195


肺炎によるCOPD急性増悪の症例では悩ましいですね。ステロイドの使用は短期間であれば問題ないかもしれませんが、長期投与の副作用も考慮すると増悪因子である肺炎のコントロール(

抗生剤)が優先になるケースもあるでしょう。



ステロイドの投与量に関しては基本的には喘息と同様に増やしたらそれだけ効果が期待できるというものではなく、low dose(プレドニンで80mg以下)もhigh doseも効果は同様でありむしろlow doseの方が入院期間を短縮させたという結果でした。


投与期間についても同様に確立されたものはありません。ランドマークとなっているのは投与期間を2W以上延ばしても効果に差はなかったというstudyから多くのガイドラインで長くても2Wまでとしていますが、現在でももっと短くていいのでは?という意見は多くあります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21975757

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11405984



・・・まとめるとプレドニン40mg/日程度を7日~14日程度使用(経口できればよい)が推奨されています。3週以内の投与であれば投与量にかかわらずステロイドのテーパリングはしなくてもいいようです(突然やめて悪化したというエビデンスは今のところないため)


ステロイドの力価はこちらを参照ください


救急医の挑戦 in 宮崎


過去の気管支喘息とステロイドはこちらの記事

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10961547327.html


敗血症とステロイドの記事

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10948036879.html




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次に『COPDの急性増悪と抗生剤』についてです。


http://www.the-hospitalist.org/details/article/1453399/What_Is_the_Appropriate_Use_of_Antibiotics_In_Acute_Exacerbations_of_COPD.html


結論からいうと、どんな症例においても抗生剤を投与したらいいわけではないです。デメリットとメリットを比較して使用することになります。


デメリットとしてはどんなものが挙げられるでしょうか?

 

不必要な投与は耐性菌を増やし、医療費も膨らんでしまいます。アレルギー反応などの副作用の問題も0ではありません。


しかしながら、統計的に急性増悪の起炎菌として細菌感染の割合が5割程度である背景に加えてメリットとしてプラセボと比較したメタアナリシスでは治療の失敗を減らし、入院死亡率を下げることが示されています。また、人工呼吸器管理率を低下させ、その後に増悪になる率(再発率)を低下させたりといったこも報告されています。


では、どんな症例に適応していけばよいのでしょうか?


喀痰の量が増えてきたり、膿性痰になってきた時にはinfection、特に細菌性を考慮し抗生剤を検討するということが推奨されています。


また、人工呼吸器を装着するような状態の悪い場合も治療しないという選択肢のリスクが大きいので抗生剤を検討します。


まとめると下表のような時に抗生剤を考慮します。



救急医の挑戦 in 宮崎


想定される起炎菌は市中肺炎と同様にインフルエンザ桿菌、モラキセラ、肺炎球菌が多く他にもクラミジアやマイコなども関与します。


一部のインフルエンザ菌や多くのモラキセラはβラクタマーゼを産生しペニシリン耐性になっていることに注意してください。


さらには頻回の抗生剤の使用や入退院を繰り返す症例、気道閉塞が強く状態が悪い場合などは耐性菌やグラム陰性菌(特に緑膿菌)のカバーが必要になってきます。


緑膿菌は本当に怖い菌です。来院して数時間後に亡くなってしまった敗血症の症例を最近経験しました。。。FN(発熱性好中球減少症)のガイドラインでもそうなっていますが、ブドウ球菌(特にMRSA)は経過みて培養みて(バンコマイシン)開始しても遅くはないけど、緑膿菌は最初からcoverするようになっていますよね。それだけ怖い菌だからです。


下の表も参考にしてください。


救急医の挑戦 in 宮崎


抗生剤は5日間の投与が推奨されています(5日間以上投与しても効果が変わらなかったというデータからきています)


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ではCOPDが背景にある方に発症した肺炎であれば、いつもこうした菌を念頭に治療した方がいいのでしょうか?


COPDというだけで(烙印を押されてしまうと)いつも緑膿菌も考慮した抗生剤の選択肢になるのでしょうか?


少し深く考えてみます。


COPD の安定期における呼吸器感染症は慢性持続感染の形態をとりますが、実は症例によってそれが存在する場合と存在しない場合とがあります


気道病変が優位ではなく持続感染がないCOPD では、喀痰は少なく、あっても膿性度は低いものですが、気道病変があってさらに慢性的な細菌感染があるCOPD では持続性の膿性痰が多くの症例でみられます。


ここらの認識が重要ですね。呼吸器症状がなくCTで肺気腫がわずかに散見される程度の人ってたくさんいますよね。


慢性的に膿性痰がある安定期COPDでの感染菌を下気道から直接献体を採取したら、検出頻度はインフルエンザ菌が最も多く、次いで肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスが多く検出されたとの報告があります。


罹病期間が長く抗菌薬の投与が繰り返されたような症例では菌交代をおこして緑膿菌などの細菌が持続感染すると考えられています。