本日は『人工呼吸器の設定』のお話ですが、研修医の先生には難しい話題かもしれませんね。私自身は何症例も重ねていくうちに少しずつ理解していった感じです。しかしながら呼吸器専門の先生の話を聞くと まだまだ知らないことがたくさんあると実感します。http://blogs.yahoo.co.jp/rikimaru1979/MYBLOG/yblog.html


細かい話は成書をしっかり読んでいただくとして、ここでは基本的な事項を確認していきたいと思います。


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3年目後期研修医の先生が一人当直で急変の患者さんへの挿管に成功!さて、呼吸器につなげて初期設定にしたものの、その後の調整はどうしたものか・・・。


まず、『PaO2』はどのくらいあればいいでしょうか?


実は高ければ高い程言い訳ではありません。低酸素血症を避けれればいいのです。これは高いPaO2を獲得するための高度酸素吸入や高気道内圧によって肺障害が生じてしまうのを防ぐためです


動脈血酸素分圧として55~80mmHg

経皮的酸素分圧として88~95%   


これが達成できるような設定にすればよいのですが、以下の優先順位があります。


①低酸素血症を避ける

②高気道内圧を避ける:最高気道内圧(プラト圧)30cmH2O以下にする

③高濃度酸素吸入を避ける:FiO2:0.5~0.6以下


※プラト圧とは従量式換気で吸気終末に休止期がある場合、最高気道内圧にはピーク圧とプラト圧の2種類が認められます。通常最高気道内圧はプラト圧を指し、これは末梢の肺胞に直接かかる圧のことです。この圧を30cmH20以下にします。(下図を参照ください)



救急医の挑戦 in 宮崎



上記を達成するためにFiO2やPEEP、換気量を調節していくことになります。


1回換気量を下げることにより気道内圧を下げることができます。換気量を下げる意味は肺胞の過伸展による肺障害を防ぐことが目的です


1回換気量に関しては10ml/kgと覚えている方も多いと思いますが、あくまで目安であり、絶対的な指標ではありません。疾患病態別の1回換気量目安としてプラト圧30cmH2O未満を維持できる場合、拘束性肺(肺線維症、肺水腫)で4-8ml/kg、閉塞性肺(COPDなど)で8-10mL/kg、健常肺で10-12ml/kgが挙げられている。急性肺障害(ARDS/ALI)では1回換気量12ml/kgで換気した群と6ml/kgで換気した群では6ml/kgで予後が良かったという報告から6ml/kgが有名になっています。 


ARDS/ARIのプロトコールでは一回換気量6ml/kgと少なくし呼吸回数(上限35回/分)で換気を維持するようになってきます。ただし、一回換気量が少なくなるにつれ、死腔換気の割合が増えたり、患者の不快も生じます。そしてこのような人工呼吸呼吸管理においてはPaCO2上昇をよく観察します


このような低換気では呼吸性アシドーシスを正常化させず、ある程度まで許容する(pH>7.25~7.30)ことがあります。これは肺胞の圧を低く保ち過伸展による合併症を避けるのが目的でpermissive hypercapniaと言います。しかしながら頭蓋内圧亢進症などで禁忌になる場合もあるので全例に適応することはできません。


ARDSに対するclinical practice guidlineです。http://square.umin.ac.jp/jrcm/contents/guide/page02.html


次に『PEEP』についてですが、PEEPが不十分であると、呼気終末に肺胞が虚脱してしまいます。肺胞が周期的な拡張と虚脱を繰り返すと肺胞上皮の脱落が発生し肺障害が増悪していまいます。そのためには適切なPEEPをかけて常に肺胞を開けておくことが大事になります。


適切なPEEPとは呼気終末における肺胞や気道の虚脱を防止できる最低限のPEEPのことを言います。


最適なPEEPとは具体的に決まっていませんが、ARDSにおいては下記のstudy(2299人のALI/ARDSの患者を対象にした3つのRCTのメタアナリシス(ALVEOLI、LOVS、EXPRESS)。低換気を施行したlower PEEP群とhigher PEEP群に分けて院内死亡率を比較したもの。


subgroup解析ではARDS群においてhigher PEEP群での死亡率がlower PEEP群と比較して34.1%VS 39.1%でP値0.049と有意差をもって低く、両群で気胸の発生率や昇圧剤の使用率に差はなかった)等でも示されているようにhigher PEEPをかけるようにARDSnetでも推奨されています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20197533



救急医の挑戦 in 宮崎



これらの事からプラトー圧30cm以下を達成できるならば過伸展を防止するために換気量を制限し適切なPEEPをかけることが大事だと言えます。


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次にプレッシャーコントロール(PCV)プレッシャーサポート(PSV)という換気モードのお話です。前者は機械の設定(気道内圧、換気回数、吸気時間)どおりに調節呼吸による強制換気に加えて自発があれば補助呼吸による強制換気が行われます


通常自発がある場合は補助換気されるので、換気量が増えてしまう可能性があります。後者は自発呼吸をきっかけとして換気が行われますが、気道内圧は機械の設定になりますが、吸気時間や換気回数は患者自身に従います。


常に自発がある患者ではPSVが適当であり、自発呼吸があるけれども停止する期間がある場合にはPCVのSIMVを行います


SIMVは自発呼吸があるが確実でない場合に一定の強制換気を保障する換気様式です。そしてSIMV+PSVに設定すればSIMV中に発生した自発呼吸に対してサポートする換気様式になります。



・・・自発呼吸は残した方がいいのでしょうか?


強制的な送気はコンプライアンスが低い肺胞や虚脱してしまったような肺胞には届かず、コンプライアンスが高い、柔らかく膨張しやすい肺胞に向かって流入します。


そのため、偏った換気になりやすく、虚脱した肺胞は虚脱し続け、そうでない肺胞は過膨張や圧損傷を引き起こします。その他にも自発呼吸温存する利点には以下のようなものがあります。



救急医の挑戦 in 宮崎



プレッシャーサポート(PS)を決める指標は1回換気量、呼吸回数、呼吸補助筋の収縮です。1回換気量を見ながらサポート圧を上げていきますが、肺疾患のない患者では15cmH2O以下で十分です。呼吸回数は30回/分以下であれば呼吸筋の疲労を防ぐことができます呼吸回数が多い場合はサポート圧を上げれば呼吸回数の低下を期待できます。



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他にも人工呼吸器の設定以外にも大切なことは山ほどあります。


VAPの予防→口腔ケア、適切なカフ圧の維持、頭位挙上(30°~40°)、過鎮静をさける、離脱ができるか毎日評価する。


http://www.jsicm.org/pdf/2010VAP.pdf


※適切な鎮静→RASS、SAS、Ramsayなどいくつかスコアリングがあります。


人工呼吸器とファイティングしている時(RASS+2)はもちろんですが、そわそわしている落ち着きのない時(RASS+1)も鎮静を増やした方がいいでしょう。意識清明でも落ち着いている(RASS 0)場合は日中であれば鎮静を増やさなくていいかもしれません。RAS-3~0を目標に鎮静します。呼びかけや身体刺激にも無反応は昏睡状態で過鎮静(RAS-5)です。



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本日は以上です。 16日(金)に善仁会病院で『第8回救急プライマリケア合同カンファレンス in 宮崎』が19:00より開催されます。またいろいろな刺激をもらって来ようと思います。


では。