昨日の内科の検討会で『抗生剤で改善しない肺炎の症例が議論されました。


基礎疾患のない10代の男性の方で多形紅斑で入院となった方ですが、spike feverと乾性咳が持続しており、しばらくして胸部CTをとると両肺に浸潤影を認めたようです。抗生剤(マクロライド、ABPC、シプロキサン)もなかなか効かず、挿管の一歩手前までいった症例の話でした。


WBCも高く、CRPも20近く、プロカルシトニンもわずかに高い。レントゲンでは両側に大葉性に近い肺炎でしたが尿中肺炎球菌抗原は陰性で、喀痰、血液培養もすべて陰性。入院して2W経過がたつも改善の兆しがないようです(グラム染色は不明)。




心嚢液のわずかな貯留や、乾性咳、若年者、抗生剤への反応が乏しいといったviralを疑わせる所見もあり、議論となりました。



マイコプラズマであれば多形紅斑の原因菌ともなりうるのですが、レジオネラの尿中抗原は陰性でマイコプラズマの抗体価は測定していませんでした。


肺外病変が多いのでCAPとしてはAP(非定型肺炎)を考慮しますが、こんなに細菌性肺炎と間違うようなpresentationでくるのでしょうか?



そこで『severe mycoplasma』や『refractory mycoplasma』について調べてみると、ICU管理になるような重症化したマイコプラズマの症例報告が日本でされていました。http://jmm.sgmjournals.org/content/56/12/1625.full


定義ははっきりしていませんが、severeマイコプラズマは急性呼吸不全を呈するもの、refractoryマイコプラズマは抗生剤の投与にも関わらず悪化していくものと考えています。


227例のマイコプラズマの症例をまとめて報告しているものですが、そのうち13例が急性呼吸不全のためにICU管理となっています。重症化してしまったマイコプラズマとそうでないマイコプラズマを比較検討してみると、重症化したものはβラクタム系を投与されていて、発症から感受性のある抗生剤の投与が約9.3日と遅れているのです


13例中の2例はしかしながら、発症3日以内に投与したにも関わらず重症化しています。重症化したマイコプラズマに対してはステロイドが良く反応したそうです。基礎疾患とかは関係なく、他にも肝機能障害や低蛋白、高LDHといった違いも見られます。


Table 1.

Underlying conditions and clinical findings on hospital admission of 227 patients with M. pneumoniae pneumonia

Data represent numbers (sd).


CharacteristicARF (n=13)Non-ARF (n=214)P value
Male : female7 : 6109 : 105>0.9999
Smoking history470>0.9999
Comorbidities4340.2401
Respiratory rate (>30 min-1) 110<0.0001
Pulse rate (>125 min-1) 490.0035
Systolic blood pressure (<90 mmHg)300.0001
PaO2 <7998 Pa 1317<0.0001
Mean no. of white blood cells (× 1000 μl-1) 16.2 (9.5)7.2 (2.1)<0.0001
Mean level C-reactive protein (mg dl-1) 27.3 (8.4)10.1 (7.9)<0.0001
Mean level TP (mg dl-1) 5.6 (0.6)7.1 (0.5)<0.0001
Mean level LDH (IU l-1) 750 (428)254 (111)<0.0001
Mean level ALT (IU l-1) 64.8 (52.2)30.0 (26.1)<0.0001
Mean level AST (IU l-1) 67.2 (38.7)29.5 (17.3)<0.0001
Chest radiograph findings*


    Unilateral infiltrates0171<0.0001
    Bilateral infiltrates1343<0.0001
    Pleural effusion55<0.0001




こうしたsevere や refractory マイコプラズマ肺炎に対してのステロイドの有用性は数多く報告されています。


今回の症例が本当に『マイコプラズマ肺炎の重症例』かどうかは不明ですが、このような例もあることを認識しておくことは大事です。


私自身が経験した症例は当初より非定型肺炎を疑いマイコプラズマ迅速IgMが陽性(感度特異度ともに微妙ですが)であったため、重症化する前から喀痰で抗酸菌陰性を確認しキノロンを開始していました(すでに前医でキノロン内服されていましたので)。


マイコプラズマを疑うといっても、画像は典型的なマイコよりも派手で『レジオネラ』が頭の隅にありました。


それにも関わらずspike feverは続き、呼吸症状も画像も増悪傾向にありました。


compromised hostではなく何かのウイルス感染もしくはマイコであればrefractory。『このままではいわゆる重症化の範疇に入るな』という感じを受けた5日目よりステロイドを開始しすぐに解熱。その後も再燃なく経過しました。


とても美しい経過だと自負しています(後日ペア血清で確定診断)。


ステロイドは使い方を誤らなければとてもいい武器になります。特に耐性マイコプラズマのような過剰な免疫応答の結果で生じているものに対してです。


ただし同時に免疫応答を低下させるために、通常の細菌感染は増悪させるかもしれないという危険が隠れています。


例えば結核やレジオネラ肺炎の場合は一旦症状が改善したように見えた後に、増悪してしまいますね。


DO NO HARM』という言葉があります。とても大事で重い言葉です。。。


ステロイドについても様々な議論がありますね。

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10948036879.html


デキサメサゾン5mg×4日間というように短期間の投与であれば対象群と比較して有害事象は生じなかったとありますが、まだまだすべての肺炎に応用できるものではないと考えています。


悩みながら最善の一手をつかむのです。



マイコプラズマ肺炎の早期診断は難しいです。


確定診断は血清学的に証明することです。

http://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/63.html


臨床的に疑うことが大事ですね。



少し脱線しますが、CAPで入院した患者にAP(非定型肺炎)のカバーも考慮して、エンピリカルにマクロライドやキノロンを追加するのかは議論のあるところです。マイコプラズマやクラミジア肺炎であれば基本はself-limitedであるためカバーを考慮しなくても予後に大きな影響を与えないだろうという観点からきています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18254049



カバーを考慮するときは次の2点であると個人的には考えています。


①レジオネラ症やマイコプラズマ、クラミジアを疑うとき(肺外病変を伴うなど。。)


②重症の肺炎(ICU入室)もしくは重症化が予想される場合(免疫能低下、重症基礎疾患など)はレジオネラや重症マイコプラズマを考慮する必要があるため

 

以上です。