宮崎に来て3ヶ月目になりますが、これまでに肺炎、心不全、間質性肺炎、脳梗塞、脳幹梗塞(MLF)、高浸透圧性高血糖非ケトン性症候群(HHNS)、ウイルス性髄膜炎、低体温症、腎盂腎炎、骨髄炎、精巣上体炎、潰瘍性大腸炎、虫垂炎、顔面神経麻痺など思いつく限りに記載させて頂きましたが、内科のcommon diseaseを中心に幅広く経験することができています(研修医にとても教育になる症例ばかりです


これに小児、整形外科や外傷治療も加われば、救急総合診療医のPerformanceとしては十分ではないかと思っていますが、残念ながら、まだまだそこまで手を広げることはできません。


私の先行する気持ちと周囲の状況を冷静に見極めながら少しずつ前に進んできたいと思っています。



さて、昨日の当直の終わり(本日朝)に経験した症例をご紹介したいと思います。



18歳の男性で『体動時に増強する嘔吐』を主訴に救急搬送がありました。


話を聞くと『朝起きた時から特に誘因なく、前胸部が痛くなり始め、呼吸をすると増悪する』との事で、やせ型の若い男性の胸痛であり、最初に鑑別に挙がる気胸を強く疑わせる感じでありました。


頸静脈怒張は認めていませんでしたが、左呼吸音が低下し、血圧100台 脈拍は90-100回/min。ポータブルのレントゲンを撮ってみると下図のようになっていました。(レントゲンを撮る前に穿刺をする程ではないと判断しました)



救急医の挑戦 in 宮崎

左の横隔膜の平底化、縦隔の右方偏移もあり、血圧は低下していませんが、緊張性気胸と言ってよいかもしれません。緊張性気胸はショックバイタルになっていなくとも縦隔偏位が見られれば『緊張性気胸』と言う場合とショックバイタルになったものを指して『緊張性気胸』という場合があります。しかしながら『緊急性が高い』という事に変わりはありません。


しかしこの時この状況で『緊急だ』と判断できる人間は私一人しかいないため、看護師さんに説明をしなければなりません。『緊張性気胸になっています。危険な状態の一歩手前です。すぐにトロッカーを準備してください』


こんな時には勿論、他の大事な業務もあるとは思いますが、『目の前の患者さんの緊急性』を認識して今ある仕事を置いてでも手伝って欲しいと思います。しかしながら私の緊張感は全く伝わっていませんでした。


案の定、トロッカーを取りに行った看護士さんは5分以上戻って来ませんでした。その間私がそばにいましたので、何かあれば穿刺抜気する準備を勿論していましたが、人手が欲しい状況です。(すぐに挿入ができるように人手を集めてくださいと的確に伝えるべきでした)



16Frのトロッカーが到着して程なくしてドレーン挿入も済み大事に至らずに済みました。



いくつも乗り越えないといけない壁がありそうです・・・。



しかしながら、こういう経験を通してチームは学び、強くなるのだと思います。その後、外来師長さんとも話し会いをしました。今後少しずつ看護師さん向けに『レクチャー』をしていくことで『緊急時にどう動くか』を伝えていきたいと思います。救急担当看護師さんがいないので、『救急患者の対応』という各個人の考え方の問題点とシステムとしての問題点を改善していきたいと思っています。


『こんな事もできない』ではなくて『こんな風にしたらもっと良くなる』と前向きに考えることが大切だと考えています。


ERで働いていた頃は、ERの仕事をして当然なのです(あまり喜ばれません(笑))。同じベクトルを向いた志の高い仲間達に囲まれて何不自由なく心地よいものでした。『さっきの患者の心電図だけど、Wellen's syndromeかもしれないね』。『Brugada typeの心電図だよ。』などこんな救急医(循環器医)しか?知らないような会話が飛び交っています。


もちろんそれが、『救急医』の姿なのです。そしてそうした環境で若い救急医/研修医を育てていくことも大事な事です。しかしながら私の場合、一旦そうした世界を離れてみると『AMI』の診断すら覚束ない、全く違った世界が目の前に広がっていたのです。


今まで住んでいた世界の『常識』が通じません。『非常識』がまかり通っているのです。(もちろんそうでない人達もたくさんいます)


おそらくそうした状況は日本各地で起こっているかもしれません。


今の私はそうした世界で、どのように考え、どう行動できるかを日々考えています。


そうすることで宮崎の救急/地域医療が良くなると信じています。


もっと勉強したい方には