注)ほんとに無駄に長いですから。
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午後の日差しがブラインドの隙間から鋭く差し込む。
光はデスクの上に真っ直ぐなストライプを描き、さらに自分のグレーのスーツにまで伸びていた。
人間とは腹が満たされるとなぜか動きが緩慢になる生き物で、昼食を挟んで業務に戻った今、身体を支える背骨がくにゃりと柔らかくなってしまったような感覚がする。
レトロと言えば聞こえはいいが、正確には何もかもが古いこのオフィスではなんとなしにゆっくりとした雰囲気が常に漂い、それがさらに間延びした神経を手助けしていた。
それでも仕事をほったらかしにしてぼうっとする訳にもいかず、緩んだ身体の芯と頭をクリアにしようと小川は思いっきり背中を伸ばす。
「ん……っと……」
腰が嫌な感じにピキリと鳴る。
38歳という身体には、過剰な伸びでさえ負担になりうるのだと小川は最近知った。
営業という職種がら外出する機会は多いが、昨今の不景気では否応もなくデスクに向かう時間が増える。
運動不足なのは明らかだった。
「小川さん、ちょっと今いいですか」
背後から投げかけるような声がかけられる。
振り向くと、向かい合わせに並んだデスクの列を2つも飛び越えた先で女性社員が立ってこちらを向いているのが見えた。
経理担当の向居知美(むかい ともみ)だ。
眉間に軽いしわを寄せて険しい雰囲気の彼女が言おうとしているのは、あまり歓迎したい事じゃないらしいとすぐに知れて小川の口から小さなため息が出る。
「なんでしょうか」
椅子を回転させて身体ごと反転した自分の目の前に向居は早足でコツコツとハイヒールの音を立てながらあっという間に到着した。
足元に視線を移せば、細く長いフォルムのヒールが見える。
小川はいつも思うのだが、なぜ女性はあんなものを履いてあんなに早く歩けるのか不思議で仕方がない。
「今朝出された接待費の件なんですけど、書類の書き方が間違ってます。また」
最後の『また』に必要以上に力を入れて棘のある言い方をしながら、彼女はずいっと領収書の束とA4サイズのフォームをつき返してきた。
「すみません」
「小川さん。接待費の書類の書き間違いはこれで3回目なんですけど」
「はい」
「一枚や二枚ならこっちで対処しても構わないんですけど、小川さんの出される書類だけやってるわけじゃないんです、私たち。そのへん、分かってもらえますか」
「そうですよね。本当にすみません。すぐに書き直しますから」
自分としては素直に謝ったつもりだったが、なぜか向居の眉間から溝は消えない。
さっきまで電話対応の一方的な会話や、隣にいる社員同士でなにやら話し込んだりしていた囁きは今や様子を窺うように若干なりを潜めていた。
『小川がまた何かやったらしい』と暗に言われているように聞こえてしまうのはやはり卑屈になっているからだろうか。
そんな中、いらだちを分散させるような長いため息の音が聞こえる。
見上げた先の向居は腕を組み、めんどくさそうに天をちらりと視線だけで仰いだ。
「……必ず今日中に提出してください」
「分かりました。本当にすみま……」
小川が言い終わる前に、すでに向居は山ほどの書類が積まれている仕事場へと踵を返し、残っているのは彼女がつけている香水の余韻だけだった。
謝罪の向かう場所がなくなってしまって、不格好な状態の小川はいたたまれなくなりすばやく身体を反転させて視界から好奇の目を切り離す。
なけなしだとしてもプライドはまだあるのだ。
デスク下の両手でぎゅっと握りこぶしを作り小川は気合を入れ直す。
そして今つき返されたばかりの紙の束に目を通し始めようとしたその時、突然フロアの入り口で爆竹のような爆音が鳴り響いた。
「……っ!」
途端に皆が身をかがめ、うわあとかきゃあという悲鳴が次々に上がる。
小川も椅子から転げ落ちそうなくらいに驚き、キーンという耳鳴りに顔をしかめながら爆音のした方角を窺った。
そこにはいかにもといった出で立ちの男が数人。
黒のパンツに黒のジャケット、そして黒の目だし帽と全身黒づくめ。
そして手には見慣れない鈍い色の金属が握られている。
拳銃――。
その言葉を頭で浮かべただけで冷や汗がどっと出て、スーツの中のシャツが肌に張り付く。
(いったい何が起こっているんだ……)
ここは大金が常にある銀行でもパチンコ店でもない。
ただのオフィスで金目のものなど無いに等しいのに。
女性たちの小さな悲鳴は握られた拳銃が動くたびに発せられる。
だがそれ以外に動きを見せる者はいない。
動けばその瞬間に撃ち殺されるかもしれないと知っているからだ。
しかし黒づくめの男たちは怯える社員たちをさらに脅す事も金品を要求する事もなく、ただオフィス全体を見渡しそして大声で告げた。
「小川を出せ! 俺たちはそいつ以外に用はない。今すぐこっちに引き渡せば残りのやつらは全員すぐに解放すると約束する。もちろん無傷で、だ」
一瞬にしてオフィスにいる同僚の視線が一点に集中した。
誰もかれも、小川さえ渡せば……という残酷な自己防衛本能の色を滲ませて。
「……!」
小川の心臓がすくんだ。
(なぜ俺が……俺にいったい何をするつもりなんだ……!)
そもそも小川には犯罪集団に目を付けられるような記憶はいっさい見当たらない。
平凡でありきたりな今までの人生だったはず。
なのに、今日という日に突然こんなことが起こるなんて。
額に汗の珠をうかべ視線を泳がせる小川はどうしたらいいのか分からなかった。
だがついに男たちが皆の視線が向かう先を特定し始めてしまう。
戸口に一番近くにいた黒づくめの一人に指を向けられる。
「おい、あいつじゃないか? あそこの、グレーのスーツだ」
「まて、確認する。……ああ、間違いない。あいつが小川だな」
最近流行りのiPadのような装置と青ざめているであろう顔を見比べて、さっき大声で小川を出せと告げた男が是と頷く。
そこに顔の画像が映し出されている事は明白だった。
(……! どうしたら……。まさか俺は……殺されるのか……)
汗が止まらない。歯の根がカチカチと口の中で音を立てる。
血の気が無くなって真っ白になるほど両手は握りしめられ、小刻みな震えが途切れなく続く。
縮こまった身体は恐怖に負けて動けなくなっていた。
俯いたままの小川の耳に重い靴音が聞こえてくる。
男のうちの一人が近づいて来ているのだと分かり、小川はぎゅっと目をつぶった。
(こ、殺される……っ! なぜ……なぜ俺が……!)
逃げることの出来ない小川が一段と震えあがった時、少し離れた場所から鋭い声が飛んできた。
「小川さん、行ってくださいっ」
「向居、さん……?」
向居は身を守ることもせずその場にしっかりと立っていた。
怯えも見えないその顔には、むしろ豪胆な微笑さえ見える。
まるで大丈夫だと確信しているような――。
「今すべきことは分かるでしょう? 行くべきところも」
「向居さん、何を……」
言われている意味がよく分からず怪訝そうに彼女を見つめる。
周りの皆も同様だった。
「おいお前っ……余計な事を言うな! 取り押さえろ!」
先に反応したのは男たちの方で、彼らにはこの言葉の意味が分かるらしい。
焦ったように二人がかりで向居を引きずっていこうとする。
だが相変わらず彼女の不敵な笑みは消えず、さらに強くなりさえした。
「このやろう……っ、いい加減にしろ! 来いっ!」
部屋の外へと引きずられて行く向居がすっと腕を伸ばす。
小川へと、正確には小川ではなくその向こう側――どこかは分からないが――を指さして。
「あちらで会いましょう」
その瞬間、小川の中で光が飛んだ。
強い、強い、閃光のような光が不規則に外側から胸の中央に向かって勢いよく飛び交い続ける。
そしてその一筋一筋が流れるごとに、冷や汗は渇き、震えは止んで、失った力を身体が取り戻していく。
「……あっちで……」
ふいに小川の中で何かがカチリと上手くはまった。
漠然としていてまだはっきりと見えないけれど、とても重要な何かを小川は見落としているのだと気付く。
そして必ず思い出さなくてはいけないのだと――。
その想いが力を得た身体をつき動かす。
「……俺は……行かないといけない」
その場で立ちあがった小川は立ったひとつしかない男たちに守られた出入り口を見つめる。
どうにかして突破しなくてはいけないという焦りはなく、ただ自信だけがそこにあった。
自分は必ずここから出られるという確信に満ちた自信が。
「おが、おがわ、さん……あの、これ、何……」
周りからかけられる問いはただ空を切る。
小川にはもう聞こえていなかった。
すっと前に踏み出した足が羽のようにふわりふわりと、もしくは穏やかな水の流れのように、音もなく進む。
触れたら飛んでしまいそうな柔い雰囲気なのに、誰も小川に近づけない。
黒づくめの男たちには苦渋に顔をしかめながら、彼ら自ら小川のために道を開いていく。
(行かないと……あそこに……。屋上に……!)
部屋を出た小川は走る。
息も荒げず階段を一気に駆け上り、屋上へと通じるドアノブを捻る。
閉じた重たいドアの背後、コンクリートの壁に向き合うと小川はおもむろに左手の甲を差し出す。
(懐かしい温もり……。俺はこうしなければいけなかったんだ)
甲が温度を帯びて薄緑色に光り出し、そこに紋章を浮き上がらせていく。
剣と斧と槍が重なり合いその背後に輝く星の紋章、それがかざしている壁にも同じようにして輝き、徐々に浮き彫りになる。
小川はそこへパズルのピースをはめこむように手の甲をあてがった――。
(空気の匂いが違う。戻って来たのか、俺は)
小川は目を開く。
眼前には茶褐色の土と岩に覆われた乾燥した大地がどこまでも広がっている。
そして小川自身はと言えば、ついさっきとは全く様相が違う。
皮なめしの防具からのぞく二の腕や太ももには鍛えあげられた分厚い筋肉が乗り、がっちりとした体格に上背もある漢くさい風貌へと変化していた。
鼻腔いっぱいに乾いた空気を吸い込んでみる。
初めて来たはずなのに懐かしい。
この大地に緑は生えないことや、天はいつも曇っているのに雨は降らないと当然のように知っていることを思えば、やはりここは自分にとって帰るべき場所なのだろうと小川は自覚した。
「ガイヤ。準備はいい?」
すぐ隣から声がする。
“ガイヤ”というのが自分の名前だと小川はすんなり理解する。
そして声のする方へと顔を向けた。
「エラニィ」
そう、彼女はエラニィという。
向居の顔をした女戦士。
その背後には数万にもおよぶ味方の軍勢が武器を片手に今か今かと交戦を待ち構えている。
「いつでもいい。行こう」
「ええ。……唯一の星の戦士ガイヤ、今回も期待しているわよ」
「誰に言っている。俺は負けない」
見つめる地平線に小さな砂埃が舞い上がるのが見えた。
それはどんどん広がり大きくなり近づいてくる。
「そうね、では背中は私が守ってあげましょう。貴方はただ前だけを見て私たちを率いていけばいい」
「ふん……好きにしろ。俺はただ、全ての戦いに勝つだけだ」
「まあ、憎たらしい事を。もっと文句を並べ立てたいところだけれど……お出ましのようね」
エラニィがにやりと笑い、まるで半月型の剣で視界の先にあがる砂塵を斬るように斜めに降りおろす。
もうもうと巻きあがるそれはさらに距離を縮め、すでに敵が小さく目視できるほどにまで近づいていることを知る。
「ああ……」
ガイヤは敵の位置を確認してから背後の味方に向き直る。
腰にたずさえた剣を一本引き抜き、天に向かって突きあげた。
「星のもとに生まれ集いし同胞よ。強き意志もて我に続け。星の大地に平安を!!」
「星の大地に平安を!!」
数万の反響に揺れる地面の上で身をひるがえしながらもう一本の剣を抜く。
ガイヤは眼前に迫る敵に標的を定め、大地を蹴って飛び出した。
「……我らに星の加護のあらんことを……!」
剣を握るこぶしに力がこもると、右手の紋章がさらに光り輝いた――。
★
っていう夢を見た。
ここまできて、夢オチごめん;;;;;;;
いやでも、すんごい壮大で目がさめたあとで
スゴー! って、ワアーーー! ってなって
すぐに思い出せる分だけメモったw
ほんとは途中とか、最後ももうちょっとあったけど忘れちった><
やたらリアルな映像だったーーー!
しかも目線が『傍観者目線』じゃなく、実際に小川とガイヤの目線なもんで
さらにリ・ア・ル
場面が変わってから、ガイヤの目線で自分の身体を見たとき、何かちょっと感動した。
がっちりな身体にグラディエーターとかトロイ(映画の)みたいな
あーいう感じの防具付けてて、オッサンやってんけども
自分が男やったらこういう視界なんかなーって思ったら新鮮で……!
映画の見すぎ? って普通なら思うとこなんだけど、
最近は映画見てないんだよなぁ~~~。
えと、『小川』は分かりやすく付けてみたもので
それ以外は夢の中で実際に出てきたらしきもの、デス。
(半分うろ覚え&向居知美は漢字適当)
つーかこんな時間……。
明日はお義父さんが来るんだよな><
世界の政治の話とかよくされるけど難しすぎて……メンドクサ……
つーか彼の為のソーダ買っておくの忘れた……あーもー麦茶出してやろっかなー
がーんばろっと!











