2022.05.26
タマは携帯電話を持っていないらしい。
連絡先は固定電話だけだった。
タマが歩くとチリンチリンと鈴が鳴る。財布に鈴をつけているのだろうか。自分が耳障りではないだろうか。
私がチョーお隣に住んでいますと告知しても興味がないようだった。
タマが入社して2,3日もすると私はイライラしだした。
タマは私が教えたことを自分のノートに書き込んでいた。まるでマニュアルを作るように。
しかも、そのマニュアル作りに時間をかけるのだ。
私が業務が進まないから、ノートは後で書いてと言っても、わからなくなるから今、書きたいと譲らない。わからない場合は、また聞いてくれたら良いと言って譲らない。それで口論になることもシバシバあった。マニュアルが完成した業務は完璧に業務をこなしていた。しかし、イレギュラーはマニュアルに載ってないのでマニュアルを追加する。口論をしてしまうせいで事務所の雰囲気は悪かった。諦めて好きにさせていたら3か月経っても私の業務は減らなかった。
社長にも、知識は優秀で仕事はデキルけど、取り組みに問題がある。いつになったら全部引き継げるか、わからないと説明した。
タマが入社して1か月程経った時に、その日が来た。私とタマが自宅の団地のエレベーターホールでハチ合わせしたのだ。
タマは驚愕の表情だった。
それから駅前やスーパーなどで何度も会った。
だが挨拶は一切なし。
タマが入社して5か月に入る頃、社長が動いた。
突然だった。社長はタマが男性であること、経理の仕事が優秀であることから長期に勤務してほしいと思っていた。しかしタマはコミニュケーションをとるのが下手だった。5か月経っても、私以外の社員と会話をしない。私と会話をしても業務のみだ。タマは昼食は社外に出る。問題ではない。社長はタマの昼食に出る時が気に入らなかったようだ。タマは12時になると役所のようにバタンと仕事を中断し、無言で昼食に出かける。問題ではない。社長にしてみれば「お昼に行きます」とか「お先に行って良いですか」とか「今日は交代してお先に行ってください」とか周囲に声をかけて欲しいと思ったらしい。そして、社長が思っていたことを口にした。昼休憩に業務を指示することは出来ない。出来ないが社長は指示をする。他の社員は気にせず機嫌良く昼食の合間に社長の指示を適当にこなしていた。しかし社長は休憩時間に仕事をしろと言ったわけではなく、コミニュケーションを取りなさいと言ったのだ。
タマの返事はイヤだった。
自分の昼休憩に何をしようが良いだろと言ったらしい。翌日の朝、社長は、このままコミニュケーションを取らなければ周囲と円滑に業務が出来ないとして本採用にならないと宣告したらしい。そしてタマは退職した。退職勧奨による退職だった。私は不謹慎ながら喜んだ。
タマの退職後も自宅近くでタマに遭遇した。
しかしコロナ禍に入る頃タマに遭遇しなくなった。私は意を決して郵便受けを見に行った。そこにタマの名前はなかった。引越したんだ。また喜んだ。
コロナ禍が落ち着きを見せた2週間前、タマに遭遇した。私はショックだった。更に数日後にもタマに遭遇。私は、その日タマの視線を避けながらタマの後を追った。タマは私が住んでいる団地に向かわず別の団地方向へ歩いて行った。そうか!引越したけど近所なんだ。私が住んでいる団地は駅前で徒歩で帰る人、バスに乗る人、自転車に乗る人が通過するのだ。頻繁に遭遇するのは、たぶん帰宅時間のシフトが変わったのだろう。まさか、まだ近所にいてるとは思ってもみなかった。
でも元気に働いているんだなと安心いや興味津々。どんな仕事をしているのか。完