ティネリールを去る日が来た。
たった2日の滞在で、こんなに後ろ髪をひかれるなんて、全く予期していなかった。
むしろ、2日しか滞在していないからこそ、名残惜しいのかな?
でも、旅の終着地はまだ先。
先へ進まなきゃ。
旅立つ日の朝、ハジャが描いてくれたヘナアート。
カスバ街道沿いにあるティネリールの街の近くには、観光名所であるトドラ渓谷がある。
その割に、街の中心部では観光客をほとんど見かけない。
たぶん、この街自体にはこれといって華やかだったり、珍しい見所はないからだと思う。
自分だって、もともと乗り継ぎだけのために泊まるつもりだった。
そんなこの街が、よき出会いに恵まれたことで、こんなにも思い出深い場所になった。
ゆっくり滞在してみると、トドラ渓谷以外にも、美しい風景がたくさんある街だと知る。
今では、モロッコで一番好きなのがこの街の風景。
別れ際に、こんなことを聞かれた。
What do you think is the most beautiful thing about Morocco?
すぐに答えが見つからず、逆に聞き返してみた。
返ってきた答えの一つに、generousityとあった。
どんな意味でそう言ったのかは、確かめていないけれど。
スマホのGoogle translateの画面に映し出されたその文字を見て、わたしは何度も首を大きく縦に振った。
この街で過ごした時間の濃さを、味わった豊かな感情を、かみしめながら。
I am happy.
Because I am a simple man.
別れ際に聞いた言葉の意味を、それを聞いて溢れた自分の涙の理由を、考えながら。
バスはカスバ街道を西へ向けてひた走る。
何年も前にボルネオ島で買ったスカーフで、濡れた頬を覆いつつも。
刻一刻と移りゆく車窓からの絶景から、ひとときも目が離せない。