当初はFacebookに載せようと思っていたのですが、思いの外長くなってしまったので、久々にブログを更新します。

 

~~~~~~~~~~

 

リーダーとして行う最後の白猫ラボが終わりました。
まずはこのような機会を与えてくださった酒井さんをはじめ、白猫ラボに参加してくださった方々には本当に感謝しています。ありがとうございました。



僕にとっての白猫ラボは、「挑戦」の一言に尽きました。


1年間ほぼ同じ場所で定期的に行うため、参加者はおおよそ決まっています。その上(それゆえ?)参加者はこの手の活動に慣れていて、比較的主体性の高い空間が毎回形成されます。このような通期的に行うイベントの利点を活用するために、主に以下の3つを”継続して”行いデータを集めていきました。経過データが得られたのはかなり恵まれていましたね。

①伝わる伝え方
伝えるという行為は、相手に伝わって初めて成立します。逆に言えば、相手に伝わらなかったら伝えたことになりません。そこで、「相手に伝わる伝え方とはどのようなものか?」について考えていきました。科学館に行って調べてみたり、お笑いを分析してみたりもしました。
その中で一番上手く働いたのが教育心理学です。「絶対役立つ 教育心理学 実践の理論、理論を実践(藤田哲也編著、ミネルヴァ書房)」をもとに大まかに説明すると、教育心理学は「人間(特に子ども)の性質の理論」です。例えば、どうしたら記憶の定着を図れるか、やる気を出させるにはどうしたらいいか、年齢に応じてどのように伝え方を変えればいいか、などですね。また、ここから多くの実践を経て生まれた市川伸一先生の「教えて考えさせる授業」は、実際に先生の授業を受けて身をもってその凄さを実感しました。そこで、ひとまずこの理論をそのまま実践に落とし込んでみよう――そう考えて行ったのが9月に行った”白い粉”です。

 

9月:白い粉


結果は、教育心理学を用いた取り組み自体は評価されましたが、それが上手く機能しませんでした。そもそも上手に取り入れられていないというのもありますが、対象が人間であるがゆえ生じる個人差が想像していたよりかなり大きかったからでもあります。これは変えようのない事実ではありますが、それを「しょうがない」ものとして切り捨ててしまうのはとてももったいない。それを受け止めた上で私たちには何ができるか? そういう方向で進んでいった方がより良いものになっていくだろうと信じ、11月はより洗練させて実践を行いました。これ以降の実験教室で定番になる映像を用いた説明はここがスタートでしたし、誰しもが経験する身近さに寄せていけたのもここからでした。この11月で、僕の実験教室の1つの”型”が仕上がりました。

 

11月:発電とエネルギー 模型を用いたイメージ化の促進

②客観的評価
今まではどうしても主観的な反省しかできていなかったのですが、自らの不完全性やそもそもの”科学”のあり方として適当であることから、知的自己中心性を脱してイベントを客観的に振り返っていこうとしました。各人の主観をぶつけ合うことも時には大切かもしれませんが、私たちが相手を完璧に理解できることなんてありえませんし、実践されない限りはどうなるかは分かりませんから。

 

ふりかえりシート
 

そこで考えたのが、「ふりかえりシート」「イベント評価シート」の導入です。前者は参加者がイベントを通じてどのようなことに興味を持ったか、どのようなことが分からなかったか、どういったことをしてほしいのかなどについて参加者に書いてもらうことで、参加者の視点からイベントを振り返ることができるようにしようとしたものです。もともとは「教えて考えさせる授業」で行われていたものをそのまま実践してみるだけのつもりだったのですが、いざやってみると子どもたちの言語処理能力がどの程度なのか、漢字はどの程度書けるのかなど、予想以上に様々な情報が得られました。後者はメンバーがイベントを通じてどのようなことを考えていたのか、どういう風にイベントを見ていたのかを書いてもらうことで、僕自身でなくメンバーもイベントを客観的に見られるようにしたものです。毎回自分に見えていなかったところを鋭く突っつかれて、メンバーの視野の広さに脱帽していました。これをもとにして反省会を行うので、イベント実施時間より反省会の時間のほうが長いなんてことが定番になってしまいましたが(笑)。

 

イベント評価シート


イベントが終わるたびにこれらを分析してみるのですが、「ふりかえりシート」からは子どもは様々なものに興味を示していること(=拡散的好奇心)、動的な実験ほど印象に強く残っているということなどが伺えました。また「イベント評価シート」からは回数を重ねるに連れてメンバーが自分の問題として考えるようになったように感じています。以前受けていた特別活動論の講義の最後にあった「現実に向き合うと批評家から当事者に変わる」という話に通じるものを感じました。「これはダメだ」「私がこのような根拠をもとにこう思ったからそうすべきだ」という思考ではなく、「この状況ならこうしたらいいんじゃないかな」「ここをこう変えたらもっと良くなるんじゃないかな」というスタンスで向き合い、それを実践を通じて確認することで、大きな成長につながるのではないか、そんな風にも感じています。

③社会の中での科学のあり方
CASTが定義するサイエンスコミュニケーションは、「科学の面白さや社会の中での役割などを、科学者だけでなく多くの人の間で伝え合うこと」とされています。しかし、この中で「社会の中での役割」や「伝え”合う”」の要素があまり取り入れられてないように思えました。よくよく調べてみると、この2つはサイエンスに対する信用が失墜した状況に対する打開策として歴史的には提唱されてきた要素のようです(小林傳司、科学技術とサイエンスコミュニケーション)。そこでこれらについて11月から色々と挑戦するようになりました。


まず前者については、社会問題に対して何か働きかけはできないかということを考え、11月ではエネルギー利用を減らすための工夫について、1月は商品の価格を下げることによる労働環境の変化について考えてみました。ただ、どうしても問題のスケールが大きすぎて、我が身に関わる問題として考えるまでは到達できなかったように思います。とはいえ、身近すぎて当たり前なところを当たり前なレベルでなぞっても面白みがないので(e.g.ポイ捨てするとこんな良くないことが起こるからポイ捨てはやめましょう)、そこの塩梅はこれからも考えていきたいところではあります。

 

パズルピースを組み合わせるアイスブレイク

 

後者については、参加者との対話を意識した構成にすることで実現を図りました。実験教室中の発話の半分くらいを投げかける形にしたり、子どもたちから出た何気ない発言を拾い、他の人と繋げ、参加者全体で深め合えるようにしたりしました。本格的にアイスブレイクを取り入れたのもこの頃からです。予期せぬ発言が飛び交うためかなり大変ではありましたが、本来のコミュニケーションの持つ双方向性の要素はクリアできつつあると思います。

~~~~~~~~~~

ここまでの取り組みをまとめて、同期の藤田とともに第8回サイエンス・インカレに応募しました。タイトルは「進化するサイエンスコミュニケーション~教育心理学・知的好奇心からのアプローチ~」です。

 

②や③と絡みますが、自分たちが行っていることを(サイエンスコミュニケーションの専門家・非専門家を問わず)他の方々に見てもらうことによって、活動の方向性を再考できた上アドバイスを頂くこともできました。また、応募する過程で自分たちの取り組みを論文としてまとめたことで、メタ的な視点で活動を捉え直せたのも大きかったと思います(長い反省会をしているような気分でした(笑))。


無事に書類審査を通過しファイナリストとして本大会に挑むことになりました。実施方法や構成の甘さゆえ受賞は逃しましたが、活動自体にはかなり好感をもっていただけたように思います。それにしても受賞者の発表は圧巻でした。来年研究室に配属された時に活きる経験でしたね。

 

口頭発表文理融合系のファイナリストとして


僕としては、大会を通して新たなサイエンスコミュニケーションを行えたことが一番の収穫でした。この大会は国や企業、大学教授、自主研究を行っている学生などによって行われていて、そこに対してサイエンスコミュニケーションを働きかけることによって、サイエンスコミュニケーションの意義や必要性を今までなされていなかった層に対して伝えられただけでなく、私たちに何が求められているのかを今まで関わっていなかった層の方々と議論することもできました。伝わるプレゼンや客観的/論理的評価に長けた大学教授や学生、社会の”今”について知っている国や企業とサイエンスコミュニケーションのあり方について議論できたことは、まさにCASTが定義するサイエンスコミュニケーションをそのまま体現できたのではないかと思います。

 

~~~~~~~~~~

3月には”コンピュータと人間”をテーマに、ミュージアム形式という(普段のイベントでは)今までにない形式で実施しました。学園祭の雰囲気をこれまでの研究成果の文脈に落とし込んだ感じです。


少なくとも僕はサイエンスコミュニケーションの素人なので、まずは学ぶこと、そしてそこから考えて実践を積み重ねることが(僕の中では)成長への近道です。なので、今回は科学館に行って科学や技術、そして表現方法や来館者の様子などを学ぶようにしました。そこでは、子どもは動的な展示、大人は静的な展示に向かうということ、過去→現在→未来という時間の流れがあることなど、かなり色々なことが得られました。そしてそれらをもとにしてテーマに沿うようかなり時間をかけて構成を練りました。藤田とファミレスに行って何時間も話し合ったりしたのはいい思い出です。


最終的にまとまったのは、人間と機械のセンサー比較、コンピュータがやっていることとその限界、AIの是非を問う、の3つです。人間がコンピュータに取って代わられる時代が近づきつつあることは、「AIvs教科書が読めない子どもたち(新井紀子著、東洋経済新報社)」などの書籍で指摘されています。その状況でやらないといけないことはAIの開発を止めるという消極的な動きではなく、AIと人間をどう住み分けるか(そしてそこから人間は何をしたらいいのか? と繋がっていきます)ということだと思います。そのためにはAIと人間の違い、さらに言うならそれぞれの得手不得手を把握することが必要になってきます。そこで、自由に見て回ってもらうなかでこのことを理解できるようにデザインをしてみました。

 

3月:コンピュータと人間 味覚を体験的に理解できる模型

 

実力不足だった上前例がなかったので反省点だらけでしたが、このミュージアム形式の持つ可能性が見えてきました。ミュージアムにおいては、”学ぶ”というより”遊ぶ”感覚に近く、気になったことはとりあえずやってみるという一種の拡散的好奇心を上手く引き出せる展示デザインにすれば、結果として体験知も含め多くのことを”学ぶ”ことができるのではないでしょうか。学園祭に活かせればベストですが、そうでなくてもどこかのイベントでチャレンジしてみてほしいと思っています(準備期間は長くとってね(笑))。

~~~~~~~~~~

そして最終回となった一昨日は、「駅」をテーマに実験教室とミュージアムを行いました。「駅」をどうサイエンスコミュニケーションに落とし込むかについてはかなり考えましたが、身近だけど奥が深いという性質上、割とすんなりと流れは決められたように思います。また今回意識していたこととして、「1年間にやってきた内容を全て組み込む」「必然的な流れの中で多分野を横断する(「教科の枠組みを自然と取り払えるようにデザインする」と言ったほうが的確かもしれません)」というのがありましたが、これらについても難なくできたかと思います。実験教室の最中にある子から「今までやったことは全て繋がっているんだ!」との声があがった時には、心から「よっしゃ!」と思いました。


また今回は、実施するにあたり多くの文献や実例を参考にしました。これまでも教育心理学やサイエンスコミュニケーションに関する実践例は色々と読んでいましたが、実施する内容そのものに関する文献調査をここまでしたのは今回が初めてです。調べれば調べるほど自分の分かっていなさが分かり、それによってその感覚や分かった時の喜びが実験教室の中にリアルにあらわれたような気もします。調べた中でも、「LINK→SYNC」というプロジェクトはとても面白いと思いましたね。

 

1月:駅 コスプレは世界観を形成し記憶の定着を促すため


実験教室では駅の歴史・駅の社会的役割・切符の歴史と技術進歩を、ミュージアムでは駅の構造・駅のデザイン・人の流れのシミュレーション・優先席や非常停止ボタン、ホームドアの役割について触れました。そして最後には、僕が前々から最終回で話そうと考えていた、「どうして科学が必要なのか?」ということについて話してきました。好奇心から出発して、それが科学によって確かめられることで、今まで様々な新発見とよりよい社会の実現がなされてきた。そのためには「不思議なことに気づけること」「自分なりに考えること」「情報を集めること」「情報を疑うこと」「考えたことをやってみること」の5つが大切だよ、といった内容です。この話を始めた時の部屋の空気の変わり様、耳を傾ける姿はとても印象深かったです。自分が今やっていることに対して、”科学”という視点から何らかの指針や全体像を与えるという活動にも、大きな価値があるように思えました。

 

~~~~~~~~~~

ここまで続けてきて、「サイエンスコミュニケーションではそれを行う人の全てが表れる」と思うようになりました。それは普段ものをどのように見ているかであったり、今までにどのような(体験知も含めた)学習をしてきたかであったり、どのような考え方をしているかであったり、はたまたどのような意識を持ってイベントを作り上げてきたかであったり…。そしてそれらは、私たちが直接伝えようとしている科学や技術とは別に、非言語的なところでそれなりの影響を与えているように思えるのです。実際様々なイベントで、「比較的年代の近い大学生が何かに取り組んでいる姿から学ぶものも大きいよね」と言われてきました。以前小学校でショーを行った後会場内を散策していたら、ショーを見てくれた子どもたちが寄ってきて、(ショーの内容から外れた雑談も含め)色々と会話したこともあります。もしかしたらここにサイエンスコミュニケーターの、さらに言うなら”学生”サイエンスコミュニケーターの可能性が眠っているかもしれません。

ひとまずこれで、僕のサイエンスコミュニケーション活動には一区切りをつけようと思います。決して活動をやめるわけではなく、次のステップに進むために新たな世界に足を踏み入れようとしているところです。今までに培ったことを活かしつつ、より高いところを目指して、学び続け、考え続けていきたいと思っています。まだ詳しくは言えませんがとあるプロジェクトを動かしている最中なので、それについてもいつか報告できたらと思います。


ではまた。

 

~~~~~~~~~~

P.S. 学科についてですが、無事第一志望の理学部化学科に決まりました。元々ここで学ぶことを目指して東大に来たので、これからが勝負ですね。実験とレポート作成と授業の予習復習で1日が終わっていますが、毎日かなり楽しく過ごしています。
そういえば、今度の五月祭(5/18,19)で学科の研究発表をやるのですが、その中の有機実験班の班長をしています。中々に面白いものを実験している真っ最中です。ぜひ五月祭、そして理学部化学科まで足を運んでいただけたらと思います。