裁判官が和解を成立させるために絶対にやってはいけないのは、「当事者の名前を間違えること」である。
例えば、「荻野(オギノ)」さんという当事者がいるとする。この「荻野(オギノ)」さんが出席している和解の席上で、裁判官が「萩野(ハギノ)」さんと呼びかけると、和解の成立は難しくなる。当事者である「荻野(オギノ)」さんは、裁判官が、自分のことや自分の事件を軽くみているという気持ちになってしまうからである。このようなことに無頓着な裁判官は、残念ながら少なからず存在する。なお、弁護士がこのような間違いをすることは論外である。
これに関連して言うと、離婚調停などで、「ご主人」、「奥さん」という言い方をするのも良くない。当事者からすると、これから離婚しようとしているのに「ご主人」、「奥さん」はないだろうと思うに決まっているし、妻側には、「ご主人」、「奥さん」という呼び方に男女差別的なものを感じる人もいるからである。したがって、このような場合は、「太郎さん」、「花子さん」というように、ファーストネームで呼びかけるのが正しい。
当事者尋問に際して、裁判所のみならず、弁護士も、「原告」、「被告」という言葉を使うことが多い(例えば、「原告は、そのとき、どのように感じましたか」など)。このような尋問の仕方は、法廷の威儀を保つという意味では良いのだろうが、当事者は、自分を一個の人格として認めてもらっていないという気持ちになるかもしれない。したがって、私は、「山田さん」、「田中さん」というように、姓(事案によっては名前)を使うようにしている。これには、当事者が、例えば、「原告」と言われたときに、自分のことを言われているのか、相手方のことを言われているのかで混乱しないようにという配慮もある。