→日常生活で意識しながら感覚を養う
→民事の事実認定:民事訴訟マニュアル(第2版 下 岡口基一著)を読む(p415-435図解↓)
*****対話*****
受験生(以下「受」)
「前回、事実認定の話をするということになっていましたね」
まつだ(以下「ま」)
「そうだね」
「ただ、司法試験を受ける時は、ごく初歩的なことしかやらなかった」
受
「どうしてですか?」
ま
「『事実があったのかどうか』という意味での事実認定は出ないとされていたからね」
「事実は問題文に書いたとおりだった・供述は信用できるとして、次の段階の、では事実をどう評価するか、という問題が出るからね」
「これ↑は司法研修所の刑弁教官だった菊地幸夫先生による、予備試験が始まる前の話」
(新司法試験刑事事実認定特訓講座p7)
新司法試験刑事事実認定特訓講座―刑事系論文演習問題集
Amazon |
受
「そうですか」
ま
「事実認定は司法修習で勉強するからね」
「修習で不可になるような事実認定をするなという程度」
受
「具体的にはどんな感じですか」
ま
「公表されているよ」
(新第60期司法修習生考試における不可答案の概要)
http://www.moj.go.jp/content/000036356.pdf
(民事系)
(刑事系)
ま
「いわゆる二回試験、つまり修習が終わる時点でも、そこまで高度なレベルは要求されていないでしょ」
受
「そうですね」
ま
「修習の段階なのに基本法の理解が重要だという話が出ている」
(司法修習委員会(第12回)議事録)
http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/80312001.pdf
(林道晴裁判官)
ま
「だから、事実認定の勉強は基本法の理解を完璧にしてからという認識だった」
受
「情報が古くないですか」
ま
「2008年だから、たしかに古いよ」
「ただ、比較的最近の議事録を見ても、大して変わっていないと思うよ」
(司法修習委員会( 第3 1 回) 議事録)
http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/280819-gijiroku31.pdf
(酒巻先生)
受
「そうですね」
ま
「極論すると、事実認定は勉強しすぎない方が良いかもしれない」
受
「?」
ま
「たとえば判例を読んで身につくかというと、身につくとは限らないからね」
受
「どうしてですか」
ま
「判例として残る事件って大事件でしょ」
受
「そうですね」
ま
「社会的には例外的な事件だから、事実認定で使う『経験則』では却って妥当な解決にならないこともある」
受
「?」
ま
「伊藤喜寿論文集に『世の中の病理現象だけでなく生理現象を知る』という名言が載っている」
(p123佐藤歳二著「勝つべき者が勝つ民事裁判を目指して」)
受
「なるほど」
ま
「だから、ごく初歩的な事実認定は、生理現象としての日常生活で意識すれば良い」
受
「そうなんですか」
ま
「ステップアップ民事事実認定でも『日常生活の中で』という項目がある」
(p27-8、証拠と事実の関係)
ステップアップ民事事実認定
Amazon |
*****対話ここまで*****対話部分は事実をもとにしたフィクションです。
【解説】
司法試験の前に買った本もありますが、法曹会等の事実認定の一般的な本は修習時以降から辞書的に使っています。
事例で考える民事事実認定
Amazon |
アマゾンに出てこない本はこちらです。
事実認定の一般的な本の他には、このような本(法的仮説力)も読みました。
事実認定の手法に学ぶ 荘司雅彦の法的仮説力養成講座
Amazon |
この本(法的仮説力)の参考文献として、「仮説思考」が挙がっていました。
仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
Amazon |
仮説思考というのは、コンサル業界でよく使う言葉のようです。
法曹がやっている事実認定は仮説思考だ、ということが「法的仮説力」に書いてあります。
実際、事実認定(特に民事)の本は「仮説の検証」という趣旨の内容が割りと出てきます。
・民事訴訟における事実認定(司法研修所編)p335(F裁判官)
証言を聞くとき、記録を読むときには,常にストーリー(仮説)をイメージしながら,これを検証するつもりで当たることが重要です。
・同上p386(N裁判官)
エ 事実認定は仮説の検証
事実認定は,仮説を立てて,それを吟味していく作業です。
ステップアップ民事事実認定
Amazon |
p116
事実認定は,「仮説の構築とその検証」
民事裁判過程論
Amazon |
p117
事実認定においては,裁判官は,原則的には,当事者の事実主張と反論につき,証拠を評価して,仮説形成,仮説検証,反対仮説の消去という思考プロセスをたどる。
なお、民事の事実認定で用いている考え方を一番簡潔にまとめているのは、冒頭で薦めた民事訴訟マニュアル(第2版 下)です。
民事訴訟マニュアル―書式のポイントと実務― 第2版 下
Amazon |
事実認定の部分は20ページなので、気になる受験生は読んでみてもそんなに負担ではないでしょう(冒頭の図解参照)。
ちなみに、上記(司法修習委員会(第12回)議事録)で発言を引用した林道晴裁判官(司法研修所事務局長、当時)は、上記「ステップアップ民事事実認定」に加えて、「ライブ争点整理」の編者でもあります。
ライブ争点整理
Amazon |
あまり意味はありませんが、上記「ちなみに」以下の1文で、林道晴裁判官についてごく初歩的な事実認定①②をしています。
①司法研修所事務局長として司法修習委員会の幹事になり、会議に出席している
②「ライブ争点整理」の「編者・著者紹介」(xxviii)には「現職:静岡地方裁判所長」としか書いていないものの、「ステップアップ民事事実認定」編者+①の幹事と同一人物
↓
①については
ⅰ 「ステップアップ民事事実認定」の「編・著者紹介」「主な経歴」に司法研修所事務局長と載っていること
ⅱ 司法修習委員会幹事名簿によると、司法研修所事務局長が司法修習委員会の幹事になっている
(司法修習委員会幹事名簿)
http://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/sihosyusyu/kanji_meibo/index.html
ⅲ 裁判官検索のサイト(↓)で、2008年当時は司法研修所事務局長だったらしい(このサイトは一応信用できる、信用できるのは個人的に知っている裁判官の経歴が正確に載っているから)
(裁判官検索)
http://www.e-hoki.com/judge/2299.html
②については
ⅰ 裁判官検索のサイト(↑)で2014年5月時点では静岡地方裁判所長
ⅱ 「ライブ争点整理」の奥付→2014年5月25日初版第1刷発行
(参考:有斐閣サイト、2014年5月発売)
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641136670
以上、どこか見落としがあるかもしれませんが、細かく挙げるとこうなります。
なお、「ライブ争点整理」は「控えめに言って超名著」と評価されています。
https://twitter.com/Jskyhigh/status/829634991868956672
山本和彦先生も「争点整理に関心を持つすべての者にとって必読の文献」と評価しています。
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2014_10/p33.pdf
また、事実認定は法学というより常識が問われる分野ではありますが、法学と全く無関係というわけではありません。
加賀山先生のページにも同様のことが載っています。
http://lawschool.jp/kagayama/material/civi_law/how2study/rhetric/legal_education2011.html
2 裁判員に必要とされる健全な常識とは何か
(略)「法律の知識はなくても,裁判員としての職務は全うできる」といわれている。しかし,事実認定は,法律の条文の要件に即して行われ(略)るのであるから,裁判員が職務を全うするためには,法律に関する知識のうち,「法的推論」に関する知識が不可欠となる。
(略)
裁判員の役割として求められている「常識」とは,「常識に基づく説得と議論の技術」としてのレトリックの考え方そのものであることがわかる。