Thin Lizzyのキングレコード時代のシングル盤についての覚書である。
この時代のシングルについては、長年詳細が不明だった。実物が出ることもなく、存在するかどうかも怪しいと思われていた。ところが、2001年にシンコーミュージック社から発売された「日本盤ROCK&POPS プレミア・レコード図鑑」に「ザ・ロッカー」がスリーブの写真つきで掲載された。この本は、広島市のレコード店「ジスボーイ」の菅田氏が著したものである。
この本では、次のような記載がある。
「ついに姿を現した幻のシングル。シン・リジーと言えば7~80年代ロックのイメージが強いが、このジャケットは完全に60年代末のノリそのもの。この発見で、未確認シングルは残り2枚となった。」
つまり、合計3枚のシングルが発売されていたと想定されている。
平成11年には扶桑社から「ロック日本盤シングルレコード大全」という書籍が発売された。
こちらではスリーブの写真はないが、以下の記述がみられる。
「彼らにはデッカ時代の3枚のアルバムから合計3枚のシングル・リリースがあると言われており、当時のキングのカタログからも確認することができる。しかし、現物は国会図書館にも保存されておらず未確認のままである。」
やはり、3枚の発売があり現物の確認は困難であるということを裏付けている。
ちなみにイギリスでは、DeccaレーベルからEPが1枚、シングルが4枚発売されている。そこで以前、確認のためキングレコードのホームページにある問い合わせ先にメールを出したことがある。
その返答には、カタログ上では以下の4枚の履歴があるとのことであった。
TOP-1780 1973/2/25
Whisky In The Jar
Black Boys on The Corner
TOP-1811 1973/7/25
Randlph's Tango
Broken Dreams
TOP-1869 1974/3/5
The Rocker
Here I Go Again
TOP-1896 1974/6/10
Little Darling
Buffalo Gal
前述の書籍では3枚のシングルの存在が示唆されていたが、ここでは4枚のシングルに関する情報があった。実際はどうなのであろうか。前述の菅田氏の書籍にある通り、「ザ・ロッカー」が発売されていたことは間違いないようである。
未確認情報ではあるが、それぞれに邦題がついており「Whisky In The Jar」は「ロックンロール ウイスキー」、「Randlph's Tango」は「ランドルフのタンゴ」、「Little Darling」は「リトル・ダーリン」らしい。これは出典が不明なので、今後の確認課題としたい。
現在のところこれ以上の確定した情報はないが、以下のものは関連情報として考えてもいいのではないだろうか。
2015年12月号、2016年1月号のレコード・コレクターズ誌の連載「洋楽マン列伝」で、キングレコードで勤務していた新井健司氏が出ている。新井氏はこの中で、興味深い発言をしている。少し長いが引用する。
「当時は契約上出さなきゃいけない音源がたくさんあった。そこで、売れそうにないやつはサンプルだけ作って「発売したよ」って本国に送った。これはレコード番号の最後にマルの中にプラスか漢数字の十の印をつけてる。キングの社内用語では「マルジュウ」。コレクターの人でもこれは知らないでしょう。
発売した証拠品として作るんですか。
そう、だからサンプルでも社外には配らない。オン・エアなんかされたら困るもん。20枚くらいプレスして(笑)、全部本国に送る。カタログにも載せない。よく品番が飛んだりしてるじゃないですか。欠番が。あれはこれですよ。他社でもやってたんじゃないかなあ。呼び名は違うだろうけど。」
シン・リジーに関しては、現在もキングレコードにあるカタログで確認できるので、これには当たらないかもしれない。しかし「リトル・ダーリン」のシングルを持っている人を知っているなんて遠い噂も海外の友人からの情報である。もしかしたら、これらのシングルは日本では発売されておらず探すのは困難なことかもしれない。ちなみに新井氏の発言は、連載が単行本としてまとめられた「洋楽マン列伝」でも確認できる。
実は、私もスリーブ欠損ながら「ザ・ロッカー」見本盤を所有している。ここであらためて確認してみる。
レーベル面は「LONDON」の文字が入った黄色いキングレコードの一般的なものである。見本品のスタンプがレーベル面に押されている。マトリクス番号は、A面は「SDSt 859-2」、B面は「SDSt 860-1」。この番号からは情報は読み取れない。スリーブは欠損であるが、キングレコードのカンパニースリーブがついている。気になる点はレコード番号である。キングレコードからメールで教えてもらった通り、番号は「TOP-1869」である。しかし末尾にマルにSの文字が入っている。新井氏の発言とは異なるが、SampleのSと考えるとこの記号が入っていてもおかしくない。つまり、実際は発売されていないサンプル盤の可能性も否定できない。ちなみにこの盤は海外のオークションで購入したものである。
結局、謎はまったく解決していないが、これからも情報を仕入れていきたい。なにより、現物のレコードを手にしたい。情報お持ちの方がいらっしゃったら、是非教えてください。











