大まかなあらすじは、自殺しそうにもない歯科医がなぜか自殺、歯科医が殺されたとして一番殺してそうな怪しい人物もなぜか死んでる、そしてほかにも死者が…という連続殺人もの。ポアロは歯科医が死んだ当日、偶然診察を受けに行ってたことをきっかけに事件に関わる。
・犯人について
モーリイと最後に会った(ことになっている)アムバライオティスなら殺していても時系列的におかしくないし、(真相が実際そうだったように)面会したモーリイがなりすましだとしても初対面だから気づけないかもしれないし、なんなら過去作でもよくあるように何らかの理由から対面したときに死んでたけどそれを黙ってたかもしれない…等々読みながら色々考えましたが、実際ここにトリックがありましたね。
また前述したような「自分が見た時には死んでたけど容疑をかけられかねないから黙っておく」というのはカーターについて当てはまってましたね。毎回毎回犯人でもないのに関係者みんな嘘をつくのでいい加減なれましたが、それにしてもよくポアロはこの点をうまく見破って切り崩せるな、と。
銀行頭取という立場を狙った犯行(もしくはそれにまつわるもの)ではないか?という考えが早々に示されていたので、じゃあ実際は違うのかなという内心で読んでいただけに、真相が銀行頭取という公的側面に加えて私生活的側面も帯びていたものだったのは意外でした。序盤で提示されたいかにもありそうな誤った事件の見立て(=銀行頭取であるブラント謀殺計画)が、根本から全く異なるわけでは無い(=ブラントの銀行頭取の立場を原因とした犯行)、というのが今までの作品では無かった(ような記憶)点で特に意外性を感じました。命までは狙われてなかったとはいえ、実際ブラントからすればアムバライオティスは脅威だったわけですし、バーンズによる示唆は確かにポアロを誤った方向へ導いた一方で、真実にも導いていたともいえ奇妙なものです。
・人物について
そういえば今回って、恋愛らしい恋愛描写が無いんですね。グラディスとフランク、ジェインとハワードの2組(と一応ブラントとガーダ)が出てきますが、そこはあんまり重要じゃないというか。なんだかんだここまでの長編では事件の解決と並行してヒロイン枠の恋愛が描かれていた印象だったので。オリエント急行はだいぶ特殊な事件だし…。
ブラントの立場は難しいもので、実際ポアロも一定程度の同情は示していましたし、タイトル通りの愛国殺人でしたね。まあでももとはといえば重婚が原因だしなあ…。ブラント自身も述べていますがモーリイは完全にとばっちりですし、恨んでいたシールにしたって別に悪意を持ってたわけでは無いですし、殺人自体は容認できるものでは無いですよね。
個人的にはシェパードだったりジャクリーンだったりニックだったり、度々犯人が自殺するのを見逃してるのに愛国精神から発生した今回の殺人(同情も示している)は見逃さないんだ…と思わなくは無いです。まあでも見逃してる場合というのは本人や関係者の体裁を守るためという側面がある一方、今回に関してみるとその体裁があまりにも大きすぎるのでかえって見逃せなかったって感じなんですかね?
原題は各章にもなっているマザーグースの数え歌の歌詞とのことで愛国殺人を示すものではないんですね。マザーグースに親しみが無い分邦題の方が分かりやすい一方、はっきり「愛国殺人」と示されてるせいで多少犯人が想像しやすいので難しいところ。
・まとめ
前述しましたが、一見した事件の概要と真相とが実際は違う一方、全く事実が異なるのではない(けれど真相には驚かされる)というのは今までに無かったもので新鮮でした。「死との約束」みたいに親族や表面上の利害関係人ではないダークホースが全部かっさらっていくというのも伏線回収が気持ちいいですが、事件を異なった・多角的な角度から見るとその様相が変わって見えるというのもいいですね。