BLACK☆紅ショウガ -42ページ目

BLACK☆紅ショウガ

同人サークル「BEFB」のブログです。

 夢のかげ


 僕は快楽殺人者だ。

 刃物で銃で鈍器で時には素手で人を殺した事もある。



 どうして人を殺すのかって?そんなの簡単だよ。僕がそいつらを必要としていなかったからさ。僕に害を成す者は処分しなければいけない。それがこの世界で僕が『王』としてあり続ける事に必要な事だから……



 ピピピピピ……



 けたたましく鳴り響く目覚ましの音で僕は目を覚ます。



「また現実か……」



 それは僕の世界の終わり。嫌な現実の始まりを告げる不快な音。

 僕の家はお父さんにお母さん、そして僕の3人家族。お金持ちでも貧乏でもない普通の家庭。



 僕は人と話すのが苦手だ。小学校の頃も中学校に入って今年で3年経つけどそれでも人見知りは治らない。

 勉強も苦手だ。スポーツもあまり好きじゃない。そんな僕はいつも一人で、クラスでは存在しない透明人間だった。

 でもそれでよかった。そうしていれば誰とも話さずに済んだから。でもある日、僕の日常は地震で起きた雪崩のように何の予兆もなく突如崩れ去った。



「なあ、お前ちょっと来いよ」



 野球部の部室に呼び出された僕は何も言う事も許されずただ殴られ蹴られ唾を吐きかけられた。

 きっと理由なんてなかったのだろう。何かむしゃくしゃした事があって僕がたまたま視界に入った。だから殴った……ただそれだけ。

 それから僕は毎日のように部室に呼び出され理不尽な暴力を受け続けた。時には野球部以外の人達にも呼び出されてまるでサンドバックのように殴られた事もある。



 親に言う気にはなれなかった。お父さんは馬鹿な僕の事をあまり好きじゃないみたいだし、もし虐められているなんて言えば僕がお父さんに殴られるかもって気がしたから。

 お母さんはお父さんの機嫌を取る事に必死で僕の方を見ようとはしない。でもそれは昔からの事で今に始まった事じゃない。

 あまり顔を殴られる事はなかったから先生も他の人達も誰も気づいてはくれなかった。

 僕の服の下は紫色の痣だらけなのに誰も透明な僕の事を見てはくれなかった。



 そんなある日の事……僕は夢を見ていた。なぜかそれはすぐにここが現実ではなくて夢だって事がすぐわかる不思議な夢だった。

 一面が真っ白で木も草もない終わりの見えない変な世界。でもそこには僕の他に一人の人間がいた。それはいつも僕の事を殴ってくる野球部員。そいつはなぜかロープでぐるぐる巻きにされていて眠っているのかぐったりとしていた。



「ねえ……大丈夫?」



 そいつに声をかけるとそいつは目を覚まして自分がロープで縛られている事を理解したようで僕を睨みつけてこう言った。



「お前どういうつもりだ!早くこの縄を解きやがれ!ぶっ殺してやる!」



 僕は腹が立った。なんでこの状況で僕はこいつに命令されなきゃいけないのだろうか?

 僕はこの時初めて人を殴りたいと思った。でも僕は人に殴られる事はあっても殴った事なんて一度もない。だから殴り方もわからないし力だってない。

 僕はがむしゃらにできる限り力いっぱいそいつの左頬を右手で殴った。するとそいつは見事に10メートルほどの距離を吹っ飛んで行き、ぴくりとも動かず拳には痛みも感じなかった。



「すごい……僕はこの世界ではこんなにも強いんだ……」



 そこで僕は夢から覚めた。気分は最高だった。人を殴るのがあんなにも気持ちいいものだなんて思わなかったから。

 もしかしたら……と思って学校に行ったがそいつはピンピンした様子で僕が殴った左頬も全くの無傷。でも……だからこそ僕は安心した。現実では無理でも夢の中なら何をしたって許されるのだから……

 それから毎日のように僕は眠るとこの世界へと行く事ができた。夢を見る度にその人数は増えて行き、その世界では僕が望めばどんな武器だって現れた。だからいろんな方法で人を殺した。ガトリングで蜂の巣にしたりもしたしナイフで喉を切って血を見るのを楽しんだりもした。



 確かに現実では毎日のように暴力を受け続けたけれどあまり苦にはならなかった。だって僕は夢の中ではこいつらなんかよりも何倍も何十倍も強くてしかも僕はいろんな殺し方も知っているんだ。その点、殴ったり蹴ったりのワンパターンなつまらないやり方しか知らないこいつらを僕はかわいそうだとさえ思えてきていた。

 そんな夢への生活を生き甲斐としていたある日の事だった。今日もゲームのように何回も殺したはずなのに性懲りもなくそいつらはまた蘇っていた。



「さあ、今日も君達に僕が『制裁』を加えてやろうじゃないか!」



 そう言って僕が制裁という名の虐殺を始めようとしたその時だった。まるで地面から生えるように黒い、人の形をした影のようなものが僕の前に立ちふさがったのだ。



「お前は誰だ!そこをどけ!僕の制裁の邪魔をするな!」



 しかし影は何を喋るわけでもなくただ両手を広げて立ちふさがるのみで僕はそいつを見ているとなぜだか無性に腹が立って仕方なくなった。



「邪魔だって言ってるんだよ~!」



 僕はその影に殴りかかる。でもその影は華麗に僕のパンチをかわし何度も何度も拳を前に突き出してもその影には当たる事はない。



「くそ!こうなったら……



 僕は銃を取り出して何発も放った。最初は見事にかわされていたがついに一発を左腕に命中させる事が出来てその影は左腕から血を流しながら地面へと溶けるように消えて行った。



「あいつは一体何者なんだろう……」



 それからもそいつは毎日のように僕の夢へと姿を現した。だが他のやつらはいくら殺しても夢を見る度にリセットされて無傷で復活していたのにも関わらずその影だけはなぜか傷が癒えぬまま僕の夢に現れるのだ。

 そしてそいつは自由に動けるはずなのに何故か僕に一切の攻撃を加えようとはしてこなかったのだ……



「ついにお前の命運も尽きたみたいだな」



 その影が現れるようになってから何日目だろうか?僕はついにその影の動きを完全に止める事に成功した。まあ最終的に両足を切断するまで動きが止まらなかったのだから本当にたいしたやつだと思う。



「何か言い残す事はあるか?まあ何も喋りはしないのだろうけどさ……」



 その影には目も口もない。鼻も耳も髪の毛だって生えてないし男なのか女なのか性別すらわからない。



「じゃあお別れだ。君との追いかけっこもなかなか楽しかったよ」



 僕は銃の照準を心臓に合わせて引き金を引いた。玉は見事に心臓のある場所に直撃し、その影はぐったりとして動きを止めた。これは人が死んだ時と同じ反応。もう何度も人を殺した僕にとっては何度も見た光景。

 そして影は切断された足の方から金色の粒子となって天に昇って行く。



「綺麗……だな」



 この白くて何もない世界にその金色の粒子は僕の目にはより一層輝いて見えた。

 そして頭の全てが粒子に変わろうとした瞬間確かに声が聞こえた。



「僕も楽しかったよ×××君」



 それは僕の名だった。そしてその声は遥か昔、どこかで聞いた事のある懐かしい声だった。

 僕の頬には涙が流れていた。理由はわからない……でもきっと何か悲しい事があった……それだけは何となくわかった。

 次の日の朝、お母さんは珍しく僕に話しかけてくれた。そして教えてくれた……昔、僕が小学校の頃に仲のよかった友人が死んだという事を。

 死因は元々患っていたとある心臓の病気だった。元々、たいして長くは生きられないと医者にも言われていたらしく今朝方になって息をひきとったという事らしい。

 彼は僕の唯一の親友だった……でも彼は僕にさよならも言わず突然転校してしまった。

 彼はその心臓の病気が原因で遠くの病院に入院したんだと当時聞かされてはいたが幼い僕にはその意味が理解できずただ裏切られたという気持ちにしかなれなかった。



「なんで普通にお別れできなんだよ……」



 僕はいつものように学校に向かう。そしてまたいつものように声をかけられる。



「今日もいつもの所な?」



「嫌だ」

 

 しかし僕の口から出たのは初めての拒絶の言葉だった。そして僕は初めてそいつと殴り合いの喧嘩をした。殴った自分の拳は痛かった。殴られた頬はその何倍も痛かった。

 でも……僕は初めて自分がこの世に生きているんだという事を実感した。

 痛いって事は嫌な事だけどそれは生きてるって事……彼はそれを僕に教えてくれた。




 あれから、あの夢を見る事はなくなった。虐められる事もなくなって少しだけど気の合う友達もできた。

 普通に生きる事こそがきっと彼にしてあげられるせめてもの手向けだと僕は思うから。

                おわり