僕を担当した占い師は、推定年齢60歳前後の女性だった。
これは悪いことだと思わなかった。駆け出しの占い師より、ベテランの方が占いの信憑性が高いのではないかと感じたからである。
「こんにちは」と発した一声にも年配の女性特有の穏かさが感じられ、初めての占い師として上出来だと思った。
占いは、はがき大の紙に僕の名前・年齢・生年月日などを記入することから始まった。
他に書くこともあったかもしれないけれど、項目としてはそれほど多くなかったと記憶している。
次に、仕事運やら金運やら恋愛運やら健康運やらの中から何を占うかを選ぶこととなった。
その頃僕は転職を考えていたので、仕事運を占ってもらうことにした。
占い師は僕が記入したプロフィールを見ながら、具体的にどういったことを占ってほしいかと聞いてきた。
僕は検討中の転職が成功するのか、それとも今の仕事を続けるべきかを占ってほしい、と伝えた。
占い師は「うんうん」と数回うなずき、僕の手相を見始めた。
時間にして30秒ほどであっただろうか、両者の間に無言の時間が流れた。
占い師は慣れた所作で僕の両手のひらを注意深く見ていたのだ。
間もなく手をさする行為も加えた始めた頃、声を発した。
「新しいことにチャレンジするには、今年はとってもいい年よ。このまま今の仕事を続けても悪くはないけれども、思い切ってみるにはとてもいい時期ね、今年は」
穏やかなに発せられた言葉に、僕は一瞬なるほど~と思った。
しかし続けて話を聞くうちに、どこか釈然としない感情が沸いてきた。
その理由を探るため、一度頭を整理した。
僕が聞きたいことは「転職するのによい時期はいつなのか?」ではない。
「転職することと、今の会社に留まり続けること、どちらが僕にとって得策なのか?」なのだ。
なのにこの年配占い師は、転職するのに適切な”時期”に勝手に焦点を当ててしまっている。
そして今年がよいということを、表現を微妙に変えながら繰り返しているだけなのだ。
初めての占い中の僕は、それが意図的な話題のすり替えなのか、はたまた何か勘違いをしているのか判然としなかった。
だが占い師の話は転職の”時期”から発展する様子を一向に見せない。
僕は占い師に対する感情が徐々に不快感に変わっていくのを自覚した。
(おまけに「このまま今の仕事を続けても悪くはないけれども」とは・・・なんというモヤッと感!)
ここまで読まれた読者の中には、なぜ単刀直入に尋ねないのか、と疑問を持たれる人もいるだろう。
それは、核心は最後に答えてくれるんじゃないか、という希望的観測があったことが理由の一つだ。
わずかな時間でも、独自の話術を駆使して占いの真髄を披露してくれるのだろう、そんな期待があったのだ。
また、占いにも作法があって、根掘り葉掘り聞いてしまうことは情緒がなかったりするんじゃないかな、なんて考えたりもした。
郷に入っては郷に従え。会話の流れは任せるべきと。
こういったことが、直接的な質問をすることをためらわせたのだ。
しかし持ち時間は10分である。
終了時間はもう間近のはずだった。
いや、もうすでにロスタイムに突入しているのかもしれない。
占い初体験を不満を抱えたまま苦い思い出で終えたくはない。
それにもしこの体験が失敗となれば、ふとしたきっかけで5年後に「占いを信じなくなるまでの過程」とかいう陳腐なタイトルでブログを書き綴るはめになり、書き始めたら意外と文量が多くなって、こりゃ一度では書ききれんな~なんて考えた挙句前後編に分けちゃって、その割りにこのオチは弱くないか?なんてガクプルしながら日々を過ごす、なんて事態に陥るかもしれないじゃないか!
しかし僕の気持ちに気付くはずもなく、おばちゃんのたわごと占いは依然続いている。
この状況を打破すべく、僕はおばちゃんの自尊心を損ねぬよう配慮しながらその言葉を遮り、思い切って尋ねた。
「結局僕は転職して成功するんですかね?」
聞いてしまった、と思った。
遠くない将来僕に降りかかる出来事を、占い師の声を通じて聞くのだ。
答えは成功するのかしないのか、Yes/Noの二択であり、シンプルな内容だ。
それでも不思議と気が引き締まり、体温が上昇するのが分かった。
おばちゃん占い師は、それまで見る、さするの対象だった僕の両手を自身の両手で包み込み、強からず緩からずといった力で握り締めた。
そして、微笑みをたたえて僕の目を見つめてこういった。
「それは努力次第」
って。
一瞬、時が止まった気がした。
似たような錯覚は、かつてした恋愛の中で、ささやかながら体験したかと記憶している。
それが不覚にも初老の占い師との問答の中で再び体験してしまった。
それくらい衝撃度の高い答えだった。
なんなんだその答えは?
それ言っちゃっていいのか?
それ言ってもいいなら、誰でも占い師になれるんじゃないのか?
それとも、仕事運は実は苦手分野か?(それならそう言え)
もしくは、行動の成否でなく、行動を起こすお勧めの時期を占うのが専門か?(やたら限定されてるな)
いや、絶対そういう問題じゃないよな。
もう一度言おう。
その答えは、占い師の矜持として、言っていいことなのか?
以後僕は占いおよびそれに類似するものに見向きしなくなった。
購入した本は開くこともなく、BOOKOFFへ売却することとなった次第である。
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私の体験談であり、占いを愛好する方々を批判するものではございません。
また私自身、早朝のテレビでの”今日の占い”に類するものは日々楽しんでおります。
