与太郎外伝 序章5
デルだ!チョイと勘違いをしてたようで、
昨日、更新出来てなかったな!
スマン、スマン…
では、早速どうぞ!
~・~・~・~・~・~・~・~・~
「ええ、勿論知ってますよ」
「あいつ、ビーバップ卒業後、隆大介さんの付き人になって、一から役者修行をしていたらしいんだよ」
「えっ? あの第二の仲代(達矢)と言われた?」
「で、この間、東二と久しぶりに会って、俺も役者復帰するんだって話をしたらさ、東二の劇団も、今度池袋で公演するっていうんで、良かったら出てくれないかって話になったんだよ」
「へぇ、とんとん拍子ですね!」
「東二も、本気で復帰するなら、力を貸してくれるって言ってくれてさ、嬉しかったねぇ~」
「これを機に更にステップしていくといいんですけど…」
「いや、そこまではまだ考えてないよ。とりあえず、今度の舞台で、こう応援してくれる人達が納得してくれる芝居、それをまず見せたいんだ」
2011年4月、池袋の「シアター・カッサイ」にて、舞台「散りゆく花の輝るとき」が、劇団・塾プロダクションによりプロデュース公演される。
「散りゆく花の輝るとき」は、ある日突然、父親を亡くした家族が住む部屋を舞台に、交通事故で亡くなった働き蜂の父親の人生に違和感を感じ、屈折したエモーションを露わにする息子と、そんな彼のために、精一杯の想い出を作ってあげたいと思い、現世に舞い戻って来た父親との交流を軸に、人と人との繋がりにおける価値観、ひいては家族の在り方とは何かを問い掛けた、心沸き立つハートウォーミングなストーリーだ。
あの城東のテルが役者として再び舞台に降臨する…。
それは、長年のファンである私にとって、ドラマティックな展開でもあったが、その一方で、3年前から雑誌等に取り上げられ、様々なイベント出演、役者としても各方面でのワークショップや、稽古にも参加し暖機してはいるが、白井氏がこの25年ものブランクをどう埋めるのか、そこが気になるところでもあり、また新生白井光浩にとって、それこそが圧倒的な命題であるというシビアな見解を心の奥底で抱いていた。
だが、白井氏は、その多彩な表情や台詞の微妙な強弱をフレキシブルに使い分けることで、見事リアリティーを纏った等身大の父親像を演じきっており、その演技の対象領域の広さに驚愕させられることになる。
無論、我執から離れた慈悲慈愛の精神といった重々しいテーマをサラッとすくい上げた作劇の公理性も、白井氏の役作りをワンステップもツーステップも覚醒させるバックボーンになり得ていたのも事実であろうが、この役にはまった最大の要因は、これまで役者とは違った道を歩み、人生の酸いも甘いも噛み分けて来た白井氏の豊富な人生経験が程良くアウトプットされた点にあるだろう。
その圧倒的な存在感、これまで蓄積されてきた人生の経験値、そして役者として不可欠な感性の鋭さ、これらが、今後の白井氏の役者人生にとって、最高の武器になるだろうと確信した私は、テンションも上がり、公演後白井氏を手放しで賞賛したが、当の白井氏は何故か浮かない表情を浮かべていた。
「いや、今回は失敗だったかも知れない」
「何、言ってるんですか(笑)。あまねく喝采を浴びてたじゃないですか!」
「別に、舐めてかかったわけじゃないけど、役者という世界が実に恐ろしい世界だということが、今日の舞台で身に染みてわかったんだ…」
純粋に素晴らしい舞台を観させてもらったと気分が高揚していた私は、何故、白井氏がそこまで自分の芝居を否定するのかわからなかった。
そして、戦慄の表情を浮かべる白井氏に、私は返す言葉さえ、見つからなかった。
つづく…
この物語は、限りなくノンフィクションに近い、フィクションである。
著 名和 広