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脱力したからだをベッドに委ねて、目を閉じた二宮は、隣からカチッ、とライターの音を聞く。
ベッドに寝そべったままタバコに火をつけた櫻井を目だけで睨んで、「寝タバコはやめろっつってんだろ」とキツめに言った。


「わかってるー」とからだを起こして、それでもそのままふうーっとうまそうに吸い込んで煙を吐き出した。








「で、何なの。なんの用?」



しばらくタバコをふかしてからベッドサイドの灰皿にねじ消し、
櫻井は二宮に尋ねる。





「まさかヤ リにきたんじゃねーだろ?」


「ふざけんな」


「まあなー、あの親父の下で働くなんてストレス溜 まるよな。ついでに溜 まったモンもスッキリ出したいよなー」


「その親父さんの伝言」





櫻井の表情が強張る。





「いい加減これからの話したいから、ちゃんと言った時間に家にいるようにってさ。子どもみたいにバックレてないでさ」


「話すことなんかねーもん」


「………ガキ」


「ざけんな」


「そーいうとこが、ガキ」


「うるせー」







不貞腐れたように櫻井はベッドに転がった。
もうこの話は終わり!とでも言いたいようにそっぽを向いて目を閉じる櫻井の子どもっぽい行動と表情に、さっきまで自分を揺 さぶっていた男とはまるで別人のようだ、と思う。
思いながらもこれがまたこの男の本来の顔なのだ、とも。






いつか……。


いつかこの男が素直に運命を受け入れるつもりになった時には、きっと今自分が学んでいる事が役に立つ。


今はこんなふうに後先考えないような生活をしているが、本来はこのような人間ではないはずだ。


いずれはこの国を背負って立つ人間になる。


その日のために……秘書としてそのノウハウを二宮が学んでいるのだということを、まだこの男は知らない。
それが全て櫻井のためだということも……。







いつの間にかそのまますうすうと寝息を立て始めた櫻井を見て、
本人の前ではここしばらく見せたことのない笑顔を、二宮は浮かべるのだった。









(おわり)