初めて出会ったのは、高校の頃。
『お前、ノリに似てんな』が最初の言葉。
ノリって誰だよ!って思った俺の驚きごとよく覚えてる。
そして…俺の恋愛対象が、同性だって気づいたのも、この頃だった。
つまり、智くんは俺の初恋の人だ。
初恋の相手で片思いの相手…って、なんか、な。
大学は別になったものの、ずっと仲良かった5人で同じ居酒屋に集まってよく飲んでた。
その間ももちろん智くんに彼女がいたこともあったし、合コンに誘われて行ったことだってあった。
女子に呼び出されて教室を出て行く後ろ姿。
『付き合うことになった』って言う智くんに笑顔でおめでとうを言った初めての日、
あれはショックだったな…。
自宅の自分の部屋でひとり、布団をかぶって泣いた。
本人は気にしてないみたいだったけど智くんはよくモテてたから、そんなことは何度も続いて、その度に俺は、笑顔を作るのが上手くなって。
それでも、別れれば必ず俺の…っていうか、俺達の元に帰ってきてくれるから。
だから、
俺は…ただ横でそれを見てた。
笑って…見てた。
親友という立ち位置を、失いたくなかったから。
『新作がどーしても思いつかないんだよぉ、しょーくん助けてよ』ってラインが来たのがその数日後。
実家のパン屋を継いだ智くんと、開業医の俺は、なかなか時間が合わなくて、学生時代と比べればやっぱり合う時間が少なくて。
まあ、だけどそれにちょっと助かってる。
逢いたいけど…逢うと少しきつい、から。
それなのに、こうやって呼ばれれば、なんとか時間の都合をつけて来ちゃうんだから…ほんと我ながらしょうがないよな。
「で?新作?」
「そろそろ新作パン考えねーと、姉ちゃんが怖いんだよ」
「そういうのは俺より、松潤のほうがいいんじゃないの?料理だって得意だし、海外飛び回ってるし」
「だってしょーくん食うの好きじゃん。だからこそいいアイデアが出るかなって思って」
そんなふうに言われて頼られるのも、まんざらじゃなくて。
ちょっと真面目に取り組もうと、テーブルの上の試作メモを覗き込む。
「これ、どう思う?」
智くんが、メモを覗き込む俺の隣に寄り添って。
ピタッ、と腕と腕が触れる。
ふわふわした智くんの髪が頬に触って、ふんわりと甘い香りがした。
パン生地の香りなのか、智くんがもともと持ってる香りなのか…。
途端に脈拍が早くなって、くっついた腕から熱が伝わりそうで…
気づかれないようにジリジリと離れる。
そう、俺達は親友.友達なんだ…。
「流行ってるってきいたからさあ、タピオカミルクパンとかどうかなぁ」
「えー、それ美味そうだと思う??」
「んー、思わない」
「なんだよそれぇ」
笑いながらいろいろ話して、とりあえず描いてみる、って試作品の絵をスケッチブックに書き始めた。
絵も得意な智くんはまず、作ってみたいのをイラスト化するらしい。
真面目な表情で、軽く口をとがらせてスケッチブックに向かう智くんの横顔を見ていると、ああ…やっぱり好きだな…なんて感じてしまって、知らず微笑んでいる自分に気づく。
それを隠すために、それから、智くんの集中の邪魔にならないように、ちょっと勉強でもしようかと鞄の中のタブレットを取り出した。