しばらくしてシャワーの音がやんで、「おじゃましまーす」って湯船に入ってくる気配がした。
2人分の体積に、お湯がざぶんと流れる。
チラッと横目で見れば、眉間にしわを寄せて目を閉じて、ううー、なんて息をついてる。
「おっさんかよ」
「だって、きもちーじゃん」
シャワーから水滴がポタンポタンと垂れる音。お湯の揺れるチャプンて音。
そんなのだけが聞こえる中、おっさん2人、並んで無言。
俺んちの風呂だってね、まあそれなりの広さはある。とは言っても、流石に大の大人2人には狭い。
壁の方を向いて、膝を抱えるみたいにして湯船に座ってた俺の横に並ぶように座って、俺と智の肩が今にもくっつきそうな距離で。
なんか、なんか……。
俺は、ドキドキしてんのに、オジサンは素知らぬ顔で、鼻歌なんか歌っていたりして。
ブクブクと、口まで湯に浸かる。
そんな俺の様子をちらりと見て、智はくすっと笑った。
それで、その手を俺の頬に伸ばした。
指先が触れて、ビクッとする。
触れられた頬が熱い。
節ばってスラリとした男らしい智の指は、触れたと思えばすぐ離れた。
「髪の毛、ついてた」
摘みとったそれを湯船の外に流して、なんにもなかったみたいにまた鼻歌。
ぶくぶく、ぶくぶくぶく。
火照った顔を隠すように浸かる俺の横で、智はザバって立ち上がって、
「あー、あちい!もう上がるわー。お先ぃー」
って、出ていった。
…………。
え?え?え?
なにそれ?
ほんとに一緒に風呂入るだけなの?
はあーーー?!?!
いや、別に!期待してたとかそういうんじゃないよ?
そうじゃなくてさ!
なんだよ、なんだよ。俺のドキドキ返せ!
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