そんなふうに、慣れないながらもおだやかに、毎日を過ごして。
その日は、突然やってきた。
ニノのお腹も、ずいぶん目立つようになってきたある日。
夜、家でまったりしてたとき。
そろそろ寝よっか、ってテーブルのカップをキッチンに運んでたニノが、急にうずくまった。
手にしたカップが床に落ちて…
スローモーションみたいに見えたそれを、オレはよく覚えてる。
まだ、産まれるまでには日があるはずなのに…!
慌ててニノを抱きかかえると、お腹を抑えて苦しそうに唸ってて…
すぐに病院とマネージャーの佐野くんに電話して、車で病院に向かう。
「大丈夫、大丈夫だからね、ニノ!すぐ病院で診てもらえるからね!」
後部座席で苦しそうに横たわるニノを気遣いながら、できる限り急いで運転して…なのにこういうときに限って赤信号に全部引っかかって…。
無視するわけにはいかないから、イライラしながら信号待ちして。
そんなに遠くないはずなのに、やっとついた!て気分だった。
車止めには看護師さんが待っていてくれた。
すぐにストレッチャーに乗せて運んでくれる。
真っ青な顔で苦しそうに運ばれてくのを、どうすることもできず見送るしかできなくて…。
「お願いします!ニノを、ニノを助けてください!」
叫んだ声は、廊下の向こうに消えていった。
お願い!お願いだから、神様!
ニノを連れて行かないで!
ニノはオレの、大切な、大切な人なんです!
両手をぎゅっと顔の前で組んで、祈る。
心の中で…もしかしたら声に出してたかもしんない。
オレの叫ぶ声と、なにか大きな音がわあわあと頭の中に響いて、耳がキーンとした。
ニノのことしか考えられなくて、オレはぎゅっと目を閉じた。
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