(side M)
カズから電話がかかってきたのは、深夜。もう、今日も終わろうかという時間だった。
正確に言うと、カズのスマホから着信があった。
『もしもし、潤?もうだめだわ、こいつ』
「なにが?てかなんでカズのスマホで翔さんが話してんの」
『や、違うんだって。飲んでたらニノが、潤に電話するーって言うから!』
若干苛つきながら言ったら、翔さんは慌てて言った。
「なんなの?カズは?」
『寝ちゃったよ。とりあえず、引き取りに来いよ』
電話を切って、ため息をつく。
なんなんだよ…。
今日は店が休みだったから、ほっといたら出前か、簡単なもんしか食わずにずっとゲームしてるあいつのために、メシでも作ろうと準備してた。
まあ、連絡せずに勝手に待ってたんだから仕方ないけど。
まだ飲んでなくてよかった。
携帯と車のキーを持って家を出る。
翔さんから聞いた店は、そんなに遠くじゃなかった。
店に着いて案内された個室に入ると、真っ赤な顔をしたカズが、ぐでんと横たわっていた。
「なんなの、これ」
「参ったよ。散々くだ巻いてそのまま寝ちゃったからさー」
翔さんは、そう言って苦笑いした。
同じ会社に務める翔さんとカズは、営業とSEで職種が違うから、同じ職場でもあまり顔を合わせることはないらしい。
たまに予定が合うと、一緒にメシにいくこともあって、
そんなときに俺が働くレストランに二人が来たのが、まあ、出会ったきっかけ。
今日もたまたま会社のロビーでばったり会って、飲みに行くことになったって。
しかも、カズが誘ったらしい。
いつも、仕事が終わればまっすぐ帰宅するカズが、わざわざ……。
そこに、少しモヤモヤする。
だって…どうみてもふたりは、普通の友達関係じゃないなって…思うから。
それを感じていて、それでも、一縷の望みをかけて…俺は、カズを口説いて、口説いて、口説いて。
のらりくらりとかわすカズを、俺は諦めずに追いかけて…
やっとの思いで口説き落としたんだ。