そんなふうに、平和に過ごしてた、ある夜。

お客さんは、常連さんが、ひとり。




お客さんと言っても、年も近くて、最近親しくなった、友だち。

なんか、この街に従兄弟んちがあって、入り浸っているうちに、ここが気に入って、アトリエ兼住居を立てちゃったっていう、芸術家なの。

うちのお店の内装が殺風景だって言って、自分が描いた絵だとか、置物だとかを持ってきてくれる。

初めは、邪魔なもの持ってきて…なんて思ったりもしたけど、ニノに言わせれば、なんか、出すところに出したら相当な値打ちがあるんだって!

ゲージュツって、わからないもんだなあ…。







カランカラン、とドアベルを鳴らして、ニノが、一枚の往復ハガキを指に挟んで振りながら持ってきた。




「見た?相葉さん。これ。」


それは、高校の同窓会のお知らせだった。


「同窓会なんて、改めてやるの、初めてじゃない?」

「まあ、俺たちも三十路を過ぎてオッサンになったからね、郷愁に浸りたいんじゃないですか?」

「んふふっ、オッサンって。そんなカワイイ顔で言っても説得力ないよぉ、ニノ」

「大野さんは黙っててください」

「なんだよぉ」





このふたりのこーゆーやりとりも、この店の名物、かも?

オレは、ふたりの漫才みたいなやりとりに笑いながら、同窓会に思いを馳せた。





同窓会か…。


あのひとは、来るんだろうか。

もし、会えたなら…。オレは…。

あの日、言えなかった一言。
言わずに逃げた、一言を、オレは…。






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