あれから数日。
俺は、なんだかんだ理由をつけては放課後、あの教室を覗きに行っていた。
はじめて見た、相葉の真剣な姿が、なんとなく頭から離れなかったんだ。
たどたどしく弾いていたピアノも、僅かながら上達していって。
最初に見かけた時よりはずいぶんスムーズに弾けるようになっていた。




(あの相葉がねえ…)
今日もクラスの輪の中心にいる相葉を遠巻きに眺めながら思う。
(なーんかピンとこねえんだよな…。)
今、輪の中でくしゃくしゃな顔で笑う相葉と、真剣な、なにか思いつめたような顔でピアノを弾く相葉と…





「…ねえ、翔くん、聞いてんの?!」

「っ、あ、ワリ…潤、何だって?」

「何だよ、全然聞いてなかったの?あのさ、今日も勉強してくでしょ?」

「んー、今日は…やめとくわ。」

「またぁ?最近、全然付き合ってくれないじゃん。俺、色々教えてもらいたいのに…」



中学からの友だち、松本潤が、不満そうにそう言った。
潤だって、そんなに成績が悪い訳では無い。
俺に教わらなくても、充分勉強は進められると思うんだけどな…。
ま、誰かと一緒の方が捗るタイプなのかもな。



「ワリ、明日は土曜だろ?どっかで昼メシ食べて、それから図書館行こうぜ。」

「ホント?わかった、明日ね!」

さっきまで不貞腐れてた潤の表情が、あっという間に笑顔になった。
中学の頃はちっちゃくて細くて、なんつーか虫みたいだったコイツも(俺もひとのこと言えないくらいちっちゃかったけど)、高校生になって背も伸びて男らしくなってきたと思ってたけど…まだまだ子どもの頃と同じような反応をする。


ふと、なんだか視線を感じて、顔を上げる。


(……?)


気のせい、かな。
ウキウキと明日の予定を話す潤の声を何となく聞きながら、俺は、相葉のピアノの事を考えていた。