(side N)


山口くんは、何も聞かなかった。
何も聞かなかったし、言わなかった。
良かったな、って笑って、去ってった。



ごめんね、本当にごめん。
山口くんの気持ち、気づいてて、それなのにあんなふうに、
フラフラしてる俺がきっと傷つけた。




ごめん。それと、ありがとう。





隣を見ると、翔さんの笑顔があった。
翔さんも何も聞かないで、俺を包み込んでくれた。
思いを伝えてくれた。



もう、迷わない。

フラフラしない。

それだけの思いを翔さんが、見せてくれたから。

俺は、もう迷わない。









「ニーノちゃーん」

撮影の合間、相葉さんが俺の肩に寄りかかってきた。
今日は新曲のPV撮影でスタジオに来ている。
翔さんと大野さんがふたりで撮影しているのを、スタジオの端でゲームしながら待ってるところ。
潤くんはスタッフとなんか話しに行った。



「重いんですけど」

「ニノちゃん、なんか……変わったね」

「……なにが」

「なーんとなく!」


ゲームの画面から目だけ上げて睨むと、相葉さんはいたずらっぽく黒目がちの目をキラキラさせて笑った。



「なんか吹っ切れたって感じがする。もう迷うのやめたの?」


全くこの人は……。


天然のふりして、実はよくわかってる。
賢い人。

家族より、ずっと一緒にいる、俺のシンメ。




「なによ、それ」


呆れて笑うと、ニーノちゃん!って言って、相葉さんは息が止まりそうなくらい俺をギュッと抱きしめた。


「いてててて、苦しいよ!」

「だって、嬉しいんだもん!」

「なにが!」

「ニノが幸せそうだと、オレも嬉しい!」

「いったいって!だからあんた力加減おかしいっていっつも言ってんでしょうよ!」


しばらくぎゅっとして俺をブンブンと揺さぶるようにしてた相葉さんは、腕の力を緩めて、俺のつむじに向かって囁いた。


「なんか、安心した。ニノの顔見てたら。」

「……相葉さん」

「だから言っただろ?ちゃんと話聞いて、伝えて、素直にぶつかっていけば幸せになれるって」

「そんなこと言いました?」

「え?オレ言ってなかったっけ?」



慌てる相葉さんの顔を見上げる。

出会った中学生の頃は、ほとんど変わらなかった身長も、今ではすっかり見上げる高さになって、
なんなら、すっぽり包み込まれてる。

なんだか……それも、男としてどうだかと思ったりもするけど……

自然と上目遣いになって、くふふ、って笑いあっていたら、
ゴッホン!って大きな咳払いが聞こえて、
「やべ!」って相葉さんがハンズアップした。


いつの間にか撮影が終わって、おおのさんと翔さんが戻ってきてたらしい。


腕を組んでこっちを睨むようにして立つ翔さん。顔立ちがきれいなだけに、真顔はちょっと怖い。




「なんだよふたりともー!おれも混ぜろ!」


どきどきしながら固まってたら、大野さんが突然飛びついてきて、
俺と相葉さんの間にぎゅぎゅぎゅっと割り込んできた。


「うわっ、おーちゃんちょっと!」

「狭いー!ちょっともうちょっとあけて!」

「むりむりむり!」


べつに離れればいいことなのに、なんでか相葉さんもぎゅっとなるのをやめないから、
狭い空間で無理やり3人でギュウギュウになっていたら、

「よくわかんねーけど、俺も混ざっちゃお」

って、いつの間にか戻ってきてニヤニヤしてた潤くんまで、相葉さんの上からぎゅうっとくっついて。


なんかこんなの昔、やったな。
浮島に飛び乗って落ちないようにくっつくゲーム。

なんて。


おんなじこと思い出してたのかな、


「ほら、もっとくっつかないと落っこちちゃう!」

「なに?!どこから?!」

「もっと寄って!」

「潰れるーー」

「なんなのよどっから出てきたのそのルール!」


ぎゃーぎゃー言ってたら、いつもの、翔さんの大笑いが聞こえてきた。


「お前らぁ、なにやってんの」

「翔ちゃんも!おいで!ほら、今だよ!」

「なんなんだよ、だからぁー」


身体をくの字にして笑って涙を拭う翔さんに、俺たちもなんだか笑えてきて、
笑ったら力が抜けて、
みんなで床に倒れ込んだ。


「もう、わけわっかんねーな」

「30オーバーが寄ってたかって…」

「おれなんかアラフォーだよぉ」


みんなで笑って。
なんかさ……、嬉しいなって…幸せだななんて、感じたんだ。


こうやって、笑って過ごせる仲間がいて。
同じ方向を見て、肩を並べて進めて。
何があっても包んでくれる居場所がある。
それってすごく、幸せだなあって、思ったんだ。



そんなふうに思って、座ってたら、翔さんが隣にしゃがんだ。
俺の目をのぞき込んで、ポンポンって頭をなでた。
俺もその目を見つめて、ニコッと笑った。