✳︎蛍です。
ここから先、今は事務所を辞めた先輩が出てきます。
書いたときはまさか、あんなことが起こるなんて思っていなくて…。書き換えるのも変なのでそのままにしています。
ご理解、ご了承の上お読みください。
よろしくお願いします。
今日も、仕事が終わって速攻楽屋を出る。
心配そうな相葉さんの目が、俺を見てるのはわかるけど…もう、気にしないでほしいんだよね。
足早に廊下を歩いてたら、スマホがブルブルいった。
───終わったか?先に入ってる
そのメールにイエスの返信をして、俺は、車に乗りこんだ。
「お疲れ、お疲れ!」
「すみません、おまたせして」
個室の扉を開けると、手をおしぼりで拭きながら山口くんはにこやかにこちらを見た。
賑やかな店の個室は、内装も落ち着いていて意外と静かだ。
芸能人御用達の店だけど、そんなに知り合いに会うこともないのはプライベートを守ってくれる個室の作りゆえ、かもね。
先輩グループの番組に何度か出演させて貰ってから、最近、よく誘ってくれるようになって、度々飲みに来ている。
俺とは正反対の生活の人。
アウトドア派で身体も鍛えて日焼けして。
絶対重ならないはずだし、本人もそう言っていたのに、何年か前から「そこが面白い」って言ってくれて。
可愛がってもらってるんだ。
なかなか……一人のときは食欲もなくて、べつに食わなくてもいいやなんて思ってて、
そんな時に俺を見て山口くんが、メシ、誘ってくれた。
「なんだニノ、お前、ちゃんと食ってんのか?
食わねえと力つかねえぞ」
そう言って笑って、連れ出してくれた。
「太陽に当たらないと、人間、ダメになるんだよ」
って、楽屋でゲームしようとした俺の手を取って外に無理やり連れ出して。
山口くんから見たら、俺なんか真っ白でガリガリで、ほんとに元気なさそうに見えるんだろうね。
個室に入って程なく、続々と運び込まれたメシを食いながら、いろんな話をする。
主に山口くんが。
話題も豊富で、器用で。
生命力の塊って感じの山口くんの話を聞いてると、俺まで元気になってくるような気もしてくる。
食いながら話、聞いて笑ってたら視線を感じて、俺は皿に向けていた目をあげた。
ら。
山口くんが、すっげえ優しい笑顔でこっち見てた。
「え……なんすか」
「いや、結構ちゃんと食ってるなって思って」
「食いますよ、そりゃ……こんな、美味いもんばっかりで」
「奢りだし、な?」
「ごちでーす」
ふふって笑い合う。
「いいよいいよ、いっぱい食えよ。ほら、酒は?まだビールでいいか?」
話も面白いし、俺の知らないこともたくさん知ってる。
俺の話もニコニコと聞いてくれて。
なんだか……久しぶりに、穏やかな気持ちになって、飲んでた。
「ちょっとは、元気出たか?」
さっきから何度も見る、優しい笑顔で俺を見て、山口くんは言った。
「え…」
「んー、なんか……悩んでんだろ?」
「いや、えー、っと……」
「遠慮すんなよ。いつでも付き合ってやるからさ。な?
俺でよければ相談に乗るし…
可愛い俺の妹じゃねえか」
「山口くんそれまた言う?なんで妹なのよ」
「ふふ、だってお前、弟って言うより妹って感じだもん」
「何なのそれ……」
あははは、って大きな声で笑って山口くんは、ふ、と俺を見て、
「ほんとに…お前、可愛いな」
って、微笑んだ。
その顔が、すっごく優しくて。
まるで……愛おしいものを見るような、目で。
なんだか、恥ずかしくなって。
俯いて、目を逸らした。
山口くんの、ほんのり赤い頬。
アルコールで赤くなってるだけじゃないって、何となく、わかる。
感じる。
視線が、熱くなってること。
自分で考える以上に、ことレンアイに関して傷ついてた俺は、
そうやって優しくされる事が嬉しくて。
優しさが……沁みて。
何回目かの山口くんの優しい眼差しに…気づけば、涙を流していた。
「ニノ……。大丈夫か」
俯いて……なんにも言えなくて、涙を零す俺を、山口くんはそっと、抱きしめた。
その逞しい腕にすっぽりと包みこまれたら、あったかくて……。
もう誰にも、選んでもらえないんじゃないかっていう、絶望にも似た哀しみと、包み込まれる優しさと、俺を見てくれる眼差し。
回る、アルコールでふわふわした頭。
「……うち、来るか?」
山口くんの囁きに、俺は、頷いていた。
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