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撮影は、順調に進んでいた。
久しぶりのドラマ撮影だったけど、以前もお世話になった事のあるスタッフ陣で、俺も安心して挑んでいた。
珍しく妻子持ちの役だから、そこが挑戦と言えば挑戦かな?
薬指の指輪が珍しくて、なんとなく左手を触るのが癖になったりして。
撮影が意外と順調に進んで、早くあがれて、
久しぶりに俺の家でニノと会えた夜、
眉を下げてニノがフフッ、と小さく笑った。
「ん?なんだよ」
「翔さん、また触ってる」
隣同士にラグに直接座って、ソファーに背中をもたれて飲みながら、
ニノは、俺の左手を取った。
薬指の付け根を、そっと撫でる。
「ココ、日焼けしてる」
指輪のあとが、うっすら残っている、指。
屋外の撮影も多くて、知らない間に焼けていたらしい。
「気づかなかった……」
「撮影、順調そうだね?」
「お陰様で、毎日毎日びっしり撮ってますよ」
話しながら、薬指を撫でていた指が、手の甲を撫でて、手のひらを触って、
そのまま、指と指が絡まった。
いわゆる、恋人繋ぎ、ってやつ。
「奥様とも、仲良くやってます?」
「は?何言ってんの?」
笑いながら見ると、ニノも小さく笑いながら、目を伏せる。
「なんかさ……、指輪のあととかさ、見ると、不倫してるみたいだよね」
「は?」
「愛人と会う時だけ、指輪、外してくるから、あとが残ってて……みたいなさ」
「フフッ、何それ。昭和の歌謡曲じゃねーんだから」
言いながら、繋いだ手にギュッと力を入れた。
「なに、妬いてんの?」
「そんなんじゃねーし」
プイっとそっぽを向くニノの、耳と首筋が、赤い。
素直じゃないんだから。
「お前さぁ……」
可愛すぎだろ!って言葉は、心の中で呟いて。
手を繋いだまま、向こうを向いたニノの肩に、顎を乗せる。
頬に触れる真っ赤な耳が、いじらしい。
「じゃあ、今度さぁ、指輪、買いに行っちゃう?」
「はぁ?何言ってんの」
「いいじゃん、ペアリング。虫除けにもなるしぃ」
「虫除けって……。そんなん、つけられるわけないじゃんか」
「ダメかなぁ」
「いやいや、ダメでしょ」
くすくす笑う、ニノの肩が揺れて、乗せた顎に振動が伝わる。
「いいじゃん、今度見に行こうぜ。ドラマ、クランクアップしたらさ……」
「ふふ、そんな時間、あるの?お忙しいのに。俺だって、暇じゃないんだからさ」
「そりゃそうだけどさ……」
「まあ、期待しないで待ってますよ」
相変わらずの憎まれ口、だけど。
今度はニノから、ギュッと手を握り返された。
その仕草が……何よりも気持ちを伝えてくれているような気がしたから、
俺は、空いていた右手を回して、ニノをギュッと抱きしめて、
腕の中にニノがいる、俺に身をゆだねてくれている、その幸せを噛み締めていたんだ。
ゆっくり、ゆっくり……
このまま、この恋を育てていくことが出来たなら。
いつか……。
焦ることはないって、
お互いの気持ちが、確かなら。
このまま、ゆっくり、育んでいこう。
そんなふうに、考えてたんだ。
それでいいんだって、思ってた。
けど。
まさか、こんなことになるなんて、この時は、全然思ってもみなかったんだ。