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その日は、朝から収録の予定だった。
改編期を挟んで、ちょっと久しぶりのレギュラー番組の収録で、
いつものようにニ本撮りの予定。
久しぶりに歩くスタジオまでの廊下、とは言っても、ほんの数週間ぶりくらいだけどさ。
もう何年も通いなれた楽屋に向かう。
すれ違うスタッフさんに挨拶しながら。でも、なんか、いつもよりもバタバタしてるような気がするな。
「おはよー」
そんなことを考えながら、楽屋のドアを開けた。
中には、大野さんと相葉さん、潤くん、の、3人。
あれ。翔さん、来てないんだ。
前になんか、仕事入ってんのかな。
いつも早く入るほうなのに、珍しいねーなんて思って、ふと、みんなの視線に気づく。
「なに?」
「ニノちゃん……。」
相葉さんが、なんとも言えない顔で俺を見ている。
なんだか、泣き出しそうな、怒ったような、顔で。
「なによ……」
「ニノ、まだ聞いてない?」
潤くんまで、心配そうな、顔で。
「聞いてない、って、なにを?」
尋ねる俺に、潤くんが口を開くのを躊躇ったように、少し間を置いた。
その隙に大野さんが落ち着いた声で言った。
「しょーくんが、撮られたって。週刊誌。」
「え……」
「今、事務所で事情聴取受けてる。事実確認とか、これからの対応とか、話し合ってからって事だから、遅れてくるって言ってた。
収録も遅らせてもらうって。」
テーブルの上に、週刊誌のゲラ…印刷前の試し刷りの用紙が、置いてあるのが見えた。
立ったまま、じっとそれを見つめる。
『嵐、櫻井翔、熱愛!!』
『お相手は共演中の若手女優』
見出しが、目に飛び込んできた時、相葉さんが慌ててそれを取り上げようとした。
のを、目の端で捉えて。
素早く奪い取る。
「いいじゃん、見せてよ」
ニコッ、と笑いかけてやる。
その、センセーショナルな見出しとともに、大きく掲載された写真は、ボヤけた白黒写真だけど、どう見ても、翔さんだった。
このスーツ。見覚えがある。
立ち姿も、俺のよく知ってる姿。見間違えるわけがない。
その、少しぼやけた男性と、腕を絡めて寄り添っているのは、この前スタジオで見たあの女優さん。
サラサラと流れる長い髪に、華奢で小柄な体。
こっちは、顔が比較的はっきり写っていて。
確かに、あの子だ。
次のページには、連続写真のように数枚の小さめな写真。
女の子が、男性に顔を寄せて笑っている。
遠目の写真だけど、彼女の手が男性の腕に触れているのがわかる。
女の子が腕を絡めた、別角度の写真。
夜の街を歩く、後ろ姿。
ゲラを持つ手が、細かく震えていることに、相葉さんにその手を握られて、初めて気づいた。
「ニノちゃん、あれだよ、なんかの間違いじゃない?」
焦ったふうに相葉さんが言う。
「なんか、理由があって……そうだよ、きっと」
なんか言ってるけど、あまり耳に入ってこなくて。
記事を、読む。
混乱する。
動揺する、気持ちを抑えて、読んだ。